「人よ幸いであれ」の精神を学ばせていただいて
妙智會教団会長
                         宮 本 丈 靖 

 新年明けましておめでとうございます。

 『三宅歳雄先生ご生誕百年』、素晴らしい節目の年を迎えられ、三宅龍雄先生をはじめとして信徒の皆さまに、心からのお祝いを申しあげます。

 私が三宅先生と初めてお逢いいたしましたのは、昭和45年、WCRP(世界宗教者平和会議)第1回京都会議の前の準備委員会の時でございました。それから三十有余年、実に長い間親しくご交誼を結ばせていただきました。

 三宅先生は、明治生まれ独特の背筋に一本太い芯がとおっており、悠々迫らざる風格がございました。その中にご修行によって磨きあげられた清々しいお人柄、福徳円満な笑顔、優しい語り口のなかに烈々として燃える信仰心をお持ちでした。私はいつお逢いしても魅了され、時のたつのも忘れて法談に耳を傾けました。つい昨日のように思い出されます。

 「神さまは私の激忙を大変と思われて『そちも年、一人でも多くの人を助け、喜ばせて、素晴らしい大祭を迎えさせてやる』とおっしゃられた。このありがたいお言葉。私は感激して涙があふれた。泣けて泣けて涙が止まらなかった。いよいよ私の信心は燃えてきた。使うて下さい、使うて下さいの祈りは沸き立った。一日で変わる私。それが私にもわかる。まっさらな私の誕生である」

 「九十歳のわが生命が燃え立つ。血がたぎる。こんな感激があろうか。この身を捨てても悔いはない」

 九十歳、卒寿の時の三宅先生のお姿です。

 目に見えない神を、絶対的に信じきる信仰心、絶えざる前進、何ものにも負けない不撓ふとう不屈のご精神。私はただただ感動あるのみでございました。

 アメリカの詩人サムエル・ウルマンは『青春の詩』の中に、「年を重ねただけでは人は老いない。理想を失ったときに老いが来る。歳月は皮膚のしわを増やすが、情熱を失ったとき精神はしぼむ」と書いています。

 この詩から教えられるように、まさに三宅先生は情熱を最晩年までも失わず、いやむしろ情熱をさらに燃え上がらせ、信仰の道一筋に歩まれたのです。

 私はいま85歳。私も三宅先生の、この若き青年のごとき情熱をもって、5年後の卒寿を迎えたいと念じて日々精進を重ねております。

 三宅先生は宗教協力のもとに世界の平和を実現したいと昭和28年、戦後の日本でいち早く欧米諸国を回られたのを第1回として、ご生涯に百有余回、世界中を"平和行脚"されました。「人を愛し、世界を愛し、平和建設のために我欲を捨てて尽くしぬくことは、人間として最高の生き甲斐です」とおっしゃられ、ローマ法王をはじめ諸国の宗教者、各界の指導者と交流を深められました。

 私も海外には数多く出かけて経験していますが、長時間にわたる飛行機の旅と、時差による頭脳の鈍化など非常に疲労が重なるもので、高齢者にとっては本当に大変なことです。そんな労苦をものともせず、東奔西走された三宅先生のお働きに私は感銘を深くし、世界平和のために渾身こんしんを込めるとは、このようにすべきなのだと教えて頂きました。

 日本はいま、不況の真っただ中にいながらも世界有数の経済大国となり、国民は等しく財力をもち、生活はぜいたくになりました。食べ物を残すほどの飽食。若い女性たちは海外の高級ブランド品を身につけています。

 一方、自分たちのさらなる豊かさの追求から、次々に科学技術を進歩させ、そのために大気汚染や温暖化など地球の環境破壊をもたらしております。

 世界に目を転ずれば、いまや子どもたちは大変な危機に脅かされています。エイズや児童労働に加え、とりわけ深刻なのが頻発している武力紛争や内戦です。この10年間で200万人以上の子どもが殺され、600万人が負傷しています。60億人の世界人口の3割が、未来の地球の相続者であり、人類のかけがえのない宝である子どもたちであります。子どもを愛し、尊ぶことが、必ずや世界の平和に結ぶのでございます。

 私は三宅先生が、「人よ幸いであれ」と世界の一人ひとりの難儀助けに、命がけで取り組まれた高邁なご精神を学ばせて頂き、世界の苦しむ子どもたちを救うための『ありがとう基金』を設立し、その活動に身を呈してきました。

 その永年にわたる活動が国際的に認められて、昨年5月、ニューヨークの国連本部における『国連子ども特別総会』で演説する機会を頂きました。その時、私は3つの提言をいたし、その中に国連と協力して宗教者や教育関係者による「倫理教育委員会」の設立を表明いたしました。

 その国際的な反響は大きく、わずか半年で準備会議が組織され、第1回の会議が昨年11月に開催できたことは、私の望外の喜びでございました。2年後の正式な設立に向けて、いま着々と準備をすすめているところであります。

 この会議には、三宅光雄先生がご多忙のところをご出席頂き、数々の貴重なご意見を頂戴しました。また光雄先生には『国連子ども特別総会』の祈り、わざわざアメリカまでご来駕頂き、テロで崩壊したビル跡地前の教会で執り行なった『妙智會平和祈願式』にご参列くださり、神道を代表して敬虔なる平和への祈りを捧げて頂きました。さらに私どもで主催いたしました『子ども会議』と、『子どものための宗教者ネットワーク会議』にもお参加頂きました。あらためて深く感謝いたします。

     ◇  ◇  ◇
『わが祈り死なず わが祈り永遠それは神さまの祈りが永遠でありその祈りの中に私の祈りがある』

 この三宅歳雄先生の師願継承を誓っておられる三宅龍雄先生。そのご指導のもとに光雄先生、善信先生、修先生と次代を担う若きリーダー方が、力を存分に発揮されるお姿を拝見するにつけ、私は深い感銘とともに大きな喜びを感じております。先生方が人を助け、共存共栄をはかることは人類の救済となり、平和へと結ぶのでございます。

 信徒の皆さま方が、『三宅歳雄先生ご生誕百年』のこの佳き年にさらなる精進を誓われて、修行に修行を重ねることこそ、報恩感謝のまことであります。

 泉尾教会が200年、300年と未来永劫に栄えることを心から祈念いたします。


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