▼△ 泉尾婦人会創立七十三周年記念婦人大会 講演会 △▼
 

『夫のかわりはおりまへん』

前高槻市長 江村利雄
                            


江村利雄氏


▼介護の主役は女性
ただ今、ご紹介にあずかりました江村でございます。本日は、伝統ある婦人大会にお招きいただき、こうして話をさせていただく機会を頂戴いたし、本当にありがとうございます。お聞きしますと、毎年七月の十五日には婦人大会を開催されるようでございますけども、重ねて、七十三回の記念大会だそうで、本当に感慨無量でございます。先程も控室でお話がございましたけれども、夫のかわりはおりまへんと、いらんことを言って市長を辞めたもんですから、あちこちから、ほんまはなんやねんとかどうしてんねんとか尋ねられまして、何を話してよいかさっぱり判らん状況で、今日は寄せてもらいました。

皆さん方、もちろん今日は婦人大会ですから、女性の方が多いわけですが、介護というのは女性のほうがたくさんしていらっしゃる。統計によりますと、八十何パ・セントは女性が介護されているそうです。男性はあまりしないと・・。で、僕は嫁さん妻□の介護をしたもんですから、皆さんが珍しがって、市長を辞めてまで奥さんの介護をしているということだけがマスメディアに載りましたので、朝から晩まで介護しているように言われてるんですけども、実際には嫁さんの介護は朝から晩までしておりませんよ・・。そんなんしておったら、身がもたんわけです。ですから、ほどほどにしてまして、人生いろんなことがございますけども、ほどほどというのが一番いいのではないかと・・。

介護いうても、日本人というのは、肩に力を入れて、がんばって完璧な介護をしようというような気持ちで取り組みますけども、そしたら、万が一、介護している者が倒れたら、一番困るのは介護されている人なのです。男性が介護されるほうが多いわけですけども、これはやはり平均寿命が違いますのでね。女性のほうが長生きしはるんですわ。男性の平均寿命は七十七∧何歳ですし、女性は八十四∧何歳でしょう;そしたら、六つも七つも女性は長生きされますから、当然、男性の介護は女性がするという確率のほうが高いわけですよ。そんなのやめようと思ったらですね、年下の婿さんもろといたらよろしいんですよ会場笑い□。そしたらね、六つ、七つ年下の婿さんもろたらね、逝くときはだいたい一緒ですからね。そしたら八十何パ・セントという確率にはならないわけですよ。五分五分です。旦那さんに完全に介護してもらおうという奥さん方でしたらね、十歳ぐらい年下の婿さんもろといたら、完全にやってくれます。そのかわり、二十五歳で結婚するんだったら、相手は十五歳゜中学生からもらっとかないかんのでね。

この男女の差はね、動物的にそうなってるんですよ。それを、どんな目で見てるのか知りませんが、女の人は介護、女の人は介護と言ってるのは、けしからんと思うんです。市長をしているときに、男女共同参画社会とかね、男女共生とかいろんなことを口では言ってたわけですよ。そして、嫁さんが倒れて市長を辞めて□介護するようになって、私が介護を□したら、いかにも美談みたいに言われてね。市民の人に会ったら、奥さんはどうしてはるの;と聞かはりますねん。長い間、十五年間も市長してはって、ご苦労さんですねとは、一言も言ってくれませんわ会場笑い□。だから、アホらしなってね・・。女の人っていうのは得やなって思ってるんですよ。

で、また女の人っていうのはね、大切にしておきませんと、えらい目に遭いますわ。現職中は、女房のことは□空気みたいに思っていまして。そやから、別に、居るのは当たり前やと思って、偉そうなこと言っておい、新聞とかやってて、パッと居らんようになったら、男ぐらいひとりで何もできないものはおりませんわ。だから、言うじゃないですか。奥さんが先に亡くなったら、主人は三年か四年しかもたへん。主人が先に亡くなったら、奥さんはルンルンとして、十年ぐらいもってる。そういう世の中っていうのは、もういっぺん見直さないといけませんよ。その時その時が素晴らしい人生になるように考えておかなくてはいかんなと・・。


▼骨折から始まった痴呆
僕も市長を□辞めてから、いろんな人とお会いして、いろんな人と話してたら、いいことをいっぱい教えてもらいました。人生、自分だけが良ければいいねんと思ってやっている人は本当に小粒ですね。だから、現職中にこんなこと知ってたら、選挙強かったと思いますよ。女性の票、ものすごく入ったと思いますよ。その時、気付かなかったのが、やっぱり浅はかなところですわ。今では夫のかわりはおりまへんと介護してですね、皆さん方に少しでも参考になったり、心の癒いやしになったら、幸せやなと思っているんですよ。

本日は、泉尾教会の婦人大会で話をするようにと呼んでいただいたのですが、これまで来られた婦人大会とか青年大会の講師の方の名簿を見ていましたら、立派な人ばかりですよ。私みたいに嫁さんの介護でここに話をしに来てですね、こんな大勢の人の前で話すなんていうのは、現職のときでも年に一回か二回ですよ。だから、今、あがっているんですよ。だんだん顔が赤くなってきましたよ。でも、顔が赤くなるというのは、若く見えますでしょう;会場のうしろのほうから見はったら、六十代に見えるんと違うんかなと思うんですけどね、もうあと三年で八十歳ですねん。なんでこんなに若くなるかというと、介護してるからですよ。介護しなさいな、若くなりますよ会場笑い□というように自分で思ってるんですよ。だから、なんでもひとつの方向性が出て、着地点を決めておいて、そこに上手く軟着陸したら、人生というのは素晴らしいんじゃないですか。満ち足りた人生を送らないといけないのじゃないかと・・。

市長を辞める時、市長のかわりはおっても、夫のかわりはおりませんと言ったんですね。そしたら、それが美談みたいに言われてね。だから、今の世のなか、本当に平和ですわ・・。あの時はうちの嫁さん・・今日は女性の人ばかりですが・・年と齢しいってきたら骨粗鬆症といってね、骨密度を測っとかなあきませんよ。今日見たら、正座していらっしゃる方が多いんで、安心しますけどね。だんだんそうできんようになってくるとね、ちょっと転こけてもね、ちょっと倒れてもね、どっかで打ってもね、骨折れるようになるんですわ。

だから、女性の人というのは、それだけ、赤ちゃん産んで育てて、気苦労もして、そういうふうに骨が脆もろく□なってくるんですよ。僕は人間ドッグに嫁さんと一緒に入ってね、うちの嫁さんにもおい、お前、骨密度測ってもらえと言って、検査してもらったら、医者が奥さん、あきませんよ。転けたら折れますよと言わはりますんや。転けたらあかんで、転けたらあかんでと家で大事にしてたわけですよ。言ってるときには転けませんわ。気を付けとるからね。しかし、知らんうちに転けとるんですよ。

それで、足痛い、足痛いと言うので、どないしてん;と聞くと判らへんと言うからね、温めたげようか;冷やしたげようか;ときくと、温めてと言ってね。温めてやったんですよ。そしたら、痛みがとれたと言うから、これは風呂に入ったら早く治るでと言ってね。皆さんのご家庭でもそうですけど、今の入浴剤って、いいのありますよね。なになに温泉の花とかね。風呂場に行ったら、別府の温泉の花がありまして。だから、別府温泉に連れていったげるわと言ってね。それを入れて、また、いらんことに一緒に入って揉もんだんですよ。骨折れるというのは、年と齢しいったら気を付けなあかんのは、上を触っても判りませんよ。斜めに裂けとるんですよ。それを揉んだものですから、細い骨片がみんな肉の中に入ってしまって、夜中に足が腫れてきて、痛い、痛いと言ってるし、えらいこっちゃと思って病院へ連れていったら、直ぐ入院、手術ですわ。


▼家事はみな女の仕事
ある日突然、嫁さんがおらんようになったわけですよ。そしたら、男というのはあきませんよ。ご飯を食べるのもどこにお箸があって、茶碗があってというのが判らないし、肌着がどこに入ってるのか判らへんしね。今日、家にお帰りになったら、主人に教えておきなさい。ご飯の炊きかた、洗濯のしかた。私も子供と同居してるから息子の嫁がお義父さん、洗濯物は持ってきたらいいよと言いますけどね。自分のことは自分でするよと言ってやろうとしても、洗濯機ひとつ使えませんよ。どうするの;と言うとボタン押しといたらいいと言うから、そうかと言って、五つくらいボタンありますから、全部押しといたらいつまで経っても洗濯できませんよ。脱水の音は判りますわ。脱水も終わったなと思ったら、また水がジャ・と入ってますよ。

これはどないなってんねんと言うとお義父さん、それ押したら、水だけ出てまた脱水が始まるんですと言うわけですよ。それは不親切ですよ、洗濯機を作っているメ・カ・は・・。年と齢しがいった人は、こんな小さい字で書かれてても判らんわけですよ。だから、ボタンを□押したらいいと言うから、みな押したわけですよ。

だから、洗濯機の上にスタンドみたいなのを立てて、ボタンの上に留めて、虫眼鏡で見えるような洗濯機を造ってくれと隣村に工場ありますから、言ったらね、年と齢しいってるそんな人が洗濯することはあまりないので、売れないと言いますねん。家に帰ったら、主人に言っときなさいよ。よく洗濯しなさいと・・。そうすれば、男性用の洗濯機ができますよ。年寄りの・・。そういうひとつひとつの男女共生社会と言われますが、女性のほうは日の目が当たりますねん。男性のほうはなかなか当たってきませんよ。

だからね、いろんな機会に言って、皆が寄って世直しせんといけませんわ。原点を決めてということをつくづく思っています。電子レンジでもそうですよ。ボタン押すところ、小さい字で書いてますよ。虫眼鏡でも持ってきて見ないとね。うっかりボタン押すところを間違いますよ。もともと家事は全部、若い女性がしないとあかんのだとか、女性がするものだという気持ちでああいう機械を作ってますよ。今、自分がやってみて失敗をたくさんしたから、それの文句ばかり言って廻ってるんですよ。こんなん造りなさい。あんなのしなさいと言ってあげて。だから、このごろちょっとボタンのところが大きくなったり、ランプが点くようになりましたでしょう。そういうふうなことを皆が一緒になっていろんなことを考えないと、あかんのと違うだろうかとそんなような気持ちでいるんですよ。

それと、やっぱりこれも介護をしてて思ったんですが、みなさんもそうでしょうけど、市長の奥さんとか誰の奥さんというと、近所の人があれは市長の奥さんだと言うんですよ。言われる者の身にならないといけませんよ。市場へ買い物に行ってもね、市長の奥さんや、何を買うのかジッと見てますねんて。あれはなんぼ買いはったとかこんなの買いはったとかね。


▼女性が喋しゃべらなくなったら危険

私は二人の所帯ですから、毎日市場へ買い物に行ってた。友達と会ってね、わいわいがやがや言うのが女性の趣味じゃないですか;女性というのは喋らんとあきませんよと言われました。思い付いたらパッと言うのが女性の脳だそうです。女性というのはワ・ワ・言いますね。男性は、一度考えてからものを言うからね、ちょっと遅れてるんですよ。その女性がね、もの言うのを止めはったらね、痴呆が出ますよ。今日集まっている人でも、もう物忘れする年と齢しになってはりますよね会場笑い□。痴呆の素質はありますねんで。いつでもボケになりますねん。おしゃべりな人が話を止めたらいっぺんに出てきおる。私の嫁さんがそうでしたよ。

えらいことになったなと思ってね。足の骨が折れて、診たら手術でしょう;また、病院で市長の奥さん□いじめに遭ったらかなわんと思ってね、個室に入れたんですよ。個室に入れたら絶対あきません。孤独になるんですよ。そしてね、満ち足りた介護をしてもらってるからね、ボ・ッとしてきおるんですよ。そしたらね、足の骨を折ったかて、口は達者ですよね。だからね、黙って誰にも話すことなしにしておったらね、もう四カ月ぐらいで痴呆の症状が出てきおった。だから万が一、皆さん方は、足怪我したり、腰怪我したりしても口だけ達者なうちはね、あんまり一人部屋とか入ったらあきませんで・・。五、六人の部屋入ってね、病院の中でもお喋りをよくする人とかね、女性の人でもリ・ダ・ができますわ。ワ・ワ・言ってくれはる人です。

病院の中で一番そうやって言わはる人の部屋に入ったら、痴呆になりませんわ。なってられませんよ。あんた何してんのと言いにきはったらね。皆さん方も痴呆になる□素質はあるんですけどね、家庭で、子供のこととかいろいろしないといけないからね、痴呆という病気は出てこないんですよ。出てられないわけですよ。だが、誰でも□素質があるということは忘れたらいけませんよ。四、五人集まってワイワイやってたらよろしいわ。やめたらね、ぼちぼち痴呆の始まりやなと思って、皆で気を付けてあげないといけませんよ。だからね、四カ月ぐらいしたらね、おかしな顔になって、気力が無くなってきてるしね。

私はお昼はたいてい毎日、食事を食べさせに行ってたんですよ。僕が行くとよく食べるんですよ。残したら怒りますやん。こらっと言ってね。でも、病院の人はあんまり怒らんでしょう;そうですかと言って片づけはりますよね。だからね、行かんと食べないから、看護婦さんは、やっぱりご亭主がみえたら、奥さんはよく食べはりますねとおだてますねん。毎日行かんとならんですやん。それで、毎日通ってましてん。それで、やっぱり気力を出させてやろうとしたら、体力を作らんとあかんですよ。それを、じっと顔を見たら判りますよ。痴呆が出たのがなんで判ったかと言うと、介護保険をスタ・トするまで現職でしたからね。

(孫娘は)春休みに三級の認定も取ったわけです。それで介護の方法を知っとったわけです。「お前も役に立つな」と言って、それから楽になりました。

それでも、ちょっとズレたら(オシッコ)こぼれますねん。初め一人で「あっちゃ向け、こっちゃ向け」とやってたとき、オムツの中心線に、マジックで赤い筋入れて、中心をはずれんようにこっち向かしますやん。ほんで、うまいこと反対向かしたつもりでもね、オムツが歪んだり、体が歪んだりしますねん。ほんでこぼれてしもうたりね(会場笑い)。皆さん笑ってはりますけど、やってみなはれ。難しいですよ。これは経験ですやんか。そやから、僕はうちの嫁さんがデイサービスに行ったりして、オムツを替えてきよったらね、チェックしますねん。これ、ベテランがしよったんか、素人がしよったんかいうて......。素人がしよったん多いですよ。きつうしたら、肌が痛みますやろ。緩かったらこぼれよりますやん。これもね、オムツもほどほどに旨いことせんとあかんわけですやん。そういうのは実験せんとあかんのでね。

皆さん方も、おそらく五十歳超えたら奥さんも主人も気を付けなあかんの......。クモ膜下出血とか心臓発作とかいって、パッと倒れて、しばらく寝たきりになりますやん。その時、オムツせんとあきません。クモ膜下出血で急に(オムツ)したら、よく肥えてたら重たいです。そやから、今から、元気なうちに稽けい古こしときなはれ(会場笑い)。オムツ八十円ぐらいですよ。百円あれば買えますよ。二枚買うても二百円です。お風呂あがったら、ご主人と両方で仕合はったらよろしいやん。旨うまいことできてるかテストして、元気なときにテストしとかへんかったら、一方が寝たきりになられたら、もの言うても解らんときありますやん。

そのへんを練習しておきはったらよろしい。最後にジャーッと実演して、こぼれるかこぼれへんか(会場笑い)。そういうのが、「転ばぬ先の杖」ですやん。今、笑ってはる人ね、やっときなはれや。そうでないと、いよいよそうなってから、「しもうた」と思って、「お父さん゜」言うても、横向いて知らん顔して、「ちょっと重たいな」思ったかて、せんならん(しなければならない)から。そやから、在宅介護っていうのは、そういうことも練習しとかなあかんですよ。僕もいろんな練習さしてもらいました。そやから、僕がえらい目に遭ったこと、「気ぃ付けなはれや」って、言いにきましてん。妻のかわりはおりまへん

『夫のかわりはおりまへん』と講題に書いてますけど、若い時やったらなんぼでもおりまっせ(会場笑い)。ヘタに主人が「出ていけ゜」言うたら、主人のほうが難儀しまっせ。女の人は自立心がありますけどね。「お前なんか出ていけ゜」言われたかて、別に生活に困りませんやん。男の人は出られてみたら、僕と一緒でね、どないしてご飯炊いてんのかいろんなことが判らへんからね。女の人は強いです。それを知らんかった今まで......。

皆さん方ね、主人には元気で、家のことようしてもろうて、「おおきに、おおきに」と言うてはりますやん。しかし、その腹の中では、「ようけ金持って来いよ(会場笑い)」というような顔して、「いつでもあかんかったら出て行ったるで(会場笑い)」てな調子です。男は、あくせく、あくせくしてストレス溜めて、たまに飲んで帰ったら「なんでお父さん、そんなに飲んでんの」と怒られて、よけい飲んだろか思っても、「毎日毎日怒りよったらしゃあないな」と思って帰りますやん。そういうところが男と女と違うんですよ。

皆さん方はこういう素晴らしいところ(註=泉尾教会のこと)でそれを磨かれているんですよ。だから、人よりそれだけのもの経験されてますからね。よく、あれで困った言う人にお話してあげたらいいですよ。「とにかくあんまりカリカリしなはんな」と......。せやから、僕でも、初めて市長になった時は「あれもせな、これもせなあかん」思ってますわ。それで、たいていの市長は二期目ぐらいで病気しますわ。胃切ったり、心臓悪くなったりで、僕も初めの頃やったからね。

帰っても、「(明日)この話うまく話しせんならん」と考えてますやろ。ほんなら、ベッド入ったかて寝られしませんで。そんなこと言うて考えたら、一時になっても二時になってもええ考えが出ません。「早う寝んと、明日くたびれるから」と思って、それでやっと「(ええ話)考えついた」思って寝ますやろ。朝起きたら「こう言うたろ」思って寝ますやろ。そしたらコロッと忘れてしもうて......。あほらしい。こんなこと考えててもあかんがな思うてね。そないなったら、悟りの気持ちになって、ほどほどになってできるようになるわけですよ。市長を十五年やってましたからな。三十六万高槻は、大阪と京都の真ん中ですわ。以前は、柄が悪いところでして、今は、柄が良うなってますけどな。私が辞めたら柄良うなってですね(会場笑い)。現職中は、柄悪くて、えらい目に遭うた思ってるんですけどね。

まあ、そういうふうな経験をすると、ゆとりができるわけですな。心のゆとり、和みということは、絶対必要ですよ。そういうふうなことを皆さん体験発表(感話)でね、こうして勉強してはる人は幸せですわ。だから、自分が幸せやったら、その幸せを人にも分かち合ってあげようかなという大きい気持ちで、これからなさったら非常にいいんとちがうかなと思うてます。

男女共生社会いうても、ほんまは女性がリーダーなんです。だから主人は、格好だけですわ。しかし、腹の中でそう思うてはっても、それ(「女が主役」ということ)口に出して言いなはんなや。かえって、また怒りますやん。そういうふうなのが、今の風潮やないかと思いますよ。常に冗句を言いながら

だから、僕も市長を辞めるときに「嫁さんに痴呆が出て、おかしいこと言いよる」と......。うちの痴呆はまだらでしたからね。先に言ったように、手当てしてあげようと、特訓してあげようと言うて......。ただ単にお話しするだけではあきまへんで......。冗句をしょっちゅう言わんとあきませんわ。そしたら、ワハハッと笑いよりますねん。笑ったら、心は同じ土俵の中で、同じ波長で話できますよ。笑いもせんとプーッと膨れてるときに、なんぼ言うたかてあきません。それでも言うて聞く人あるかも知れませんけど、うちの嫁さん膨れよったらあきまへんな。膨れがきついんですかね。

そういう時に心を安心さしてあげて、ゆとりを持たしてあげるということやから、しょっちゅう冗句を言うてました。ご飯も一時間で食べて、後の一時間ほどはお喋しゃべり......。この一時間、喋ってみなはれ。女の人は慣れてまっせ。ジャジャジャと、「あそこの市場はどう」とか、世間のこととか知ってますが、男は話題が狭うてね、役所の仕事の話をしたかて知らん顔してます。「あそこの課で、こんな人と会ってどうとかこう」とか言わんなんですやん。そんな話はせずに、お互いに共通話題で話してね、冗句も言うようになってね。だから、痴呆がほとんど治ったというところまでいったんですよ。その時は波長が合うてますからね。面白いことおまっせ。

その前に、頭使う体操せんとあきませんわ。病院から帰ってきたら食事もスプーンで食べよりますやん。家ではお箸で食べてたんが、病院に入って一年経ったらスプーンかいな......。もう一回お箸で食べられるようにしたろう思って、その訓練始めました。豆さん掴むの一番難しいですよ。そこで、「丹波の黒豆食べたらええで」と言い張って、それ食べさす訓練したわけですよ。最初は全部落としとりますわ。完全にお箸持つことを忘れとりましてん。もし落としよったらね、それを、こっちが全部食べますねん。パーッと(会場笑い)。そやから嫁さんの取り皿は大きいねんけど、僕の小っそうおます。落としたら、すかさず「おいしいわ」と言って食べたりますねん。「おいしい、おいしい」言うてね。そういう気持ちにさすわけですわ。犬の「お手」といっしょです。おいしいの「お預け」というのといっしょでね。

そういうことやったら、僕のほうに取りにきますねん。お父さんのほうがもっとおいしいのかと思って、怒りまんねん。「こら、これは俺のや。お前のはあらへん」と言うたら、「私のもあらへん」と言いよりますねん。「そうか、ほんならやるわ」言うて、ようけ(たくさん)やったらあきませんで。また、こぼしますから。二粒か、三粒やりますねん。

ほんなら、今度こぼしたらお父さんに食べられてしまう思ったら、真剣になってお箸挟みよりまっせ。その訓練やりますねん。
そしたら、皆さん介護する時のために覚えときはったらよろしいけど、お医者さんに顔見てもの言え。顔見てもの言え、言われてるからね。不安な時には、豆挟んだら口をそこに持って行きよりますわ。落としたらまたお父さんに食べられる。早いこと自分の口の中、入れんならん思ってね。ほんでね、自信持ったときには、お豆さん口に持って行きよるんです。その違いを見分けることによって、こら、本調子になってきよったと思って、その時にね、次に何食べさそうかとかね、これ食べてみいとか、なんかそういうふうに誘導さして、そういう訓練やるわけですよ。

面白かったんはね、ちょうど、昨年の春ですわ。畑へ行ったら、エンドウ豆グリンピ・スがぎょうさんなっとったんですわ。ちょっと若いときやったら、炊いたら豆さんにシワよりますやん。熟したら、ピンピンしてるでしょう。それを両方採って来て、皮剥いて息子の嫁にね、炊いてくれと言ったら、それを嫁が丁寧に卵入れて炊きよりましてん。美味しうて、なんぼでも食べられますねん。豆やでと言って、また、シワよった豆とシワよってない豆とを分けて、箸でtukamuます訓練したら、やっぱりシワよった豆だと落とさんですわ。箸でtukamuみやすいからね。つるっとした豆は落とす。それでも、美味しい。美味しいと言って、子供にご飯食べさすような気でやらんとあきませんわ。そんならね、その時もそうですけど、僕が美味しい。美味しいと言うと、僕の食べているものが、ものすごい美味しいと思いよりまんねん。そう思ってきたら、こっちの思うツボですわ。美味しいわと、また余計言うたりまんねん。

本人が食べたいという気になってきたら、自分でお箸でおかずをつまみ、左手空いてるから、左手で僕のおかずtukamuみにきよりますねん。それで、こらっと怒りまんねん。お前なあ、お箸でtukamuめ、手ではあかんと言ったら、どない言いよったかと言うとお父さん、なんや手でtukamuんであかんなら、足でtukamuんだろかと冗談言いよりまんねん。一年ちょっと前までですよ、雨降ってる。傘持って行けとボケ言うてたのが、そんなに言うようになる回復するんですね。これは、同じ波長で特訓した成果や思ってますねん。

そういうふうになってきたら、友達が来たり、お見舞いに来たらね、普通の話できるようになりますやん。皆さん良うなりはったなあと言いまんねん。けど、それは結果であって、それをする家族が大変ですねん。その時、大変や思ったらあきまへん。嫁さん妻に悪いけど、ひとつひとつが実験でんねん。実験して、成功したら、ああ成功したなあ、次、今度は何やろうと思って、そういう気持ちで、前向いて、心のゆとり持ってやる介護は素晴らしいことですよ。

だから、僕自身、なんでそんなことしつこく言うかといったら、夫のかわりはおりまへんと、市長を辞めた時、友達に言ったら、えらい怒られたからね。ようし、俺、やったろ゜と思ったからね。今、申し上げたような、実体験の話をしたら、あの痴呆言ったわけですが、そんなら、新聞に載りよったんですわ。すると、うちの嫁さんのお針の友達からね、電話掛かってきて、ご主人ね、あんなん特訓すること可哀想やと言うんです。わしは、まだ痴呆の入り口やから、治そうと思ってるねん。そりゃ、治るか治らんか判らんけど、治らんかっても、これ以上悪化せんようにしたろう思ってるねん。その成果を出すために、俺、責任があるから黙ってやってた。どうなるか判らんけど市長という公職に就いている時に、一旦、うちの嫁はん、ちょっと痴呆が出てきよったと言ったら、それをどない取り組むか、皆さん見てはるから、俺、ひとつの目標決めるために言ったんです。今度から、言わへんがなそう言うてたんです。そういうことあるから、余計やり出した。余計、意地出してね。だから、成果が出てきてね。ええなあと思ってきたら、苦労し甲斐があります。その苦労をそういうふうに思えるようになったら、いけるようになったんですわ。

男の人は、江村はいらんこと言ったと多分思ってはったと思いますが、市長のかわりはおっても、夫のかわりはおりまへんの、夫というのは、妻とも読めるんですよ。嫁はんのかわりはおりまへんと、こうね。一番大事なのは、任期の途中で、市長職を辞すことが市民に申し訳ないと言ったんですが、新聞の見出しには、市長のかわりはおっても夫のかわりはおりまへんと、こちらのほうが大・的に載ったんです。そしたら、あれ、名文句や言われてね。二年前の二月十日ですよ。辞めること言って、十一日の朝刊にドカッと出たら、友達から電話掛かって来てね、お前、ほんまに辞めるのかと言ったので、辞めると言ったら、えらいことになってきてね。その友人は奥さんに、そんなら私友人の奥さん倒れたら、江村さんのように介護するんやなあ言われたので、もちろんするやん言ったらあんた、あてにならんと嫌み言われたと、友達二人が電話掛けてきて、世の男性に悪いことしたと思って・・。皆さん方、考えたら年と齢しいってきてどっちかが倒れたら、どっちかが介護するの当たり前と違いますか僕は当たり前のことやってきたから、市長を辞して介護するのが当たり前と思って言ったのが、話題になったこと自体がおかしい世の中です。

そやから、こうして各地に辻説法に行って、世直しせんと、わし責任感じる。たいてい女の人は喜んでくれはって、男の鑑や言うてくれはる。それでね、市民に会ったら、市長さん、ええこと言うてくれはりましたなあと言うてくれはるけど、あんたらいいけど男の人は怒ってはりまんがな。そういうこと、もう二年前の話ですけど。皆さん家に帰ってもね、今日、・夫のかわりはおりまへん・という話聞いてきたけど、家に帰ってあんまりご主人に言うて下さいませんように・・。わし、泉尾教会へ来て、嫁さんに火つけたように言われますがな・・。私が倒れたら、あんた介護するねんなと言うことは、やっぱし、言わんようにしてほしいです。皆さん方は心の修行しているんやから、言わんと思いますけど。そやけど、せっかく婦人会の七十三周年記念大会に来てですよ、皆さん家に帰って一言一言、言わはったら、世の中の男性から江村というのは、いらんこと言う奴やと思われて、わし、えらい目に遭いまんがな会場笑い。

そういうふうにいろんなことやってきて、やっぱり、僕初めに言ったように、心の安心て言うか、そういうふうに介護する人には、余裕を持たしてあげて、そしてあの安らぎを感じさしたげるような介護、これは病人でなくてもよろしい。ちょっとね、心を癒してあげないといけない人には、そういうふうに利用しはったら、皆、助かるんですよ。こう思い出しながら、毎日が楽しい、充実した日を送らなあきません。人間ですから、すべて充実というわけにはいけませんが、ちょっとくらい物足りんでも、辛抱してね。そういうふうにしとかんと、ギスギスした世の中になりますやん。だから、僕自身、いつも、思っているのですけど、毎日毎日がね、自分で振り返ってみて、よかったなと思ったら、よろしいんで、失敗したなあと思ったら、次は失敗しなかったらよろしいんで、そないして、ずっと良うなったのですが。

husband江村利雄氏の熱演に耳を傾ける婦人会員たちその妻が、去年の十一月にショ・トステイに行ってね、ご飯食べて、お昼ご飯喉に詰めよったんです。家では一時間も二時間もかかってご飯食べてますやん。ステイ先でどんな調子で食べて喉に詰めたか、判らんかったんです。十分間程喉に詰まってたんですけど、係りの人が判らんかったのです。施設の方が気が付いて病院へ連れて行きはったけど、治らんです。呼吸停止状態で脳に十分間も酸素が行かなかったら、完全にダメですね。助かったとしても、重篤な後遺症が出ます。五カ月ほど入院して、やはり、施設に入りはった人も、長い間入院したり、施設に入ったりしたら、家に帰りたいと言います。

今度、いっぺんなるべく、しんどいけど在宅介護やろうと思って、五月に家に連れて帰って、介護保険で在宅介護なさいと言ってはるけど、医療関係者の者は介護保険やないですよ。医療保険ですわ。人工心肺つけてるから、挿管のため、喉切られてるわけですよ。そこに入れてるから痰を吸い上げないと肺炎になったり、呼吸止まったりするんです。夜中にも二時間、三時間おきに痰を取らないとね・・。それは、お医者さんか、看護婦さんしかしてはいけないことになっている。ヘルパ・さんはできない。家族やったらできる。夜中なので、仕方ないなあと思って、わしが今やってますねん。今日も二時半に起きて、オムツ替えてあげて、痰取って、一時間でもよう寝ますのや。今日はここへ来んならんと思って、九時頃に嫁が来たので、お前、頼むでと言って出掛けてきたのですけど。

これを、もっと手近に出来るような医療法に替えたげないと、家族が大変ですよ。そうかといって、病院に入れたら、病院でも同じことでしょう。三カ月経ったらね、入院するのに一日なんぼと、お金あまり降りなくなる。そしたら、転・とされるわけですよ。だから、そういうところを、もっと充実したげて、皆さんの中でもヘルパ・さんの資格持ってらっしゃる方おられるかと思いますけどね、イギリスなどのように、ヘルパ・さんとかも吸引できるようにしたり、救命救急士の方にも一部の医療関係の行為もできるような制度に変えていかないといかんのと違うかと・・。今、そういうこと思って、言ってるわけですよ。まあ、地方分権で実際、皆さん方、市民の方お一人お一人、国民のお一人お一人が将来どうなるかを考えながら、それぞれの施設について提案したげないかん時代になりました。その辺で、皆さん方本当に心の修練されておって、これからも取り組まれるのですから、もうちょっと、ハ・ド面でもいろいろ考えて、また、提案してあげたら非常にいいのと違いますかなあ。

毎年七月十五日になったら、婦人会の大きな大会があるのですから、来年のテ・マを今から考えておかれて、少子高齢化社会と言うけれども、少子の方はなんとか、かんとか言って乗り切れても、高齢化社会はなかなか難しいですから。先に話したように皆さん痴呆の予備軍です会場笑いから、痴呆にならんように気を付けて毎日過ごさないと・・。だから、安心して満ち足りた状況というのはあきません。介護してても、満ち足りた介護はあきません。たまに気合いを入れて、気力持たさないとあかん。うちの嫁はきついと言われるほど、お姑さんは幸せなんです。年齢いったら、あまり嫁がきついこと言っても、怒らんようにしてね。お互いにニコッと笑ってね、できれば、僕の言ったほどほどの人生送って、介護でも・ほどほど音頭・で踊って、金光教の婦人会ですから、いろんな方おられるでしょうけど、いっぺん・ほどほど音頭・作ってもらって、介護の話が出たら、まず、ほどほど踊りでもすると、介護も苦痛にならない。来年はそういうふうな・ほどほど音頭・ができましたらまた、ご招待下さい。聞かせてもらいますから・・。
そういうことで、少し時間をオ・バ・しましたけど、終わらせていただきます。ご静聴有り難うございます。

平成十三年七月十五日


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