大阪国際宗教同志会 講演記録


ヨーロッパの〈セクト(カルト)宗教〉について


毎日新聞社

特別編集委員 横山真佳

平成九年四月三日、金光教泉尾教会神徳館小会議室におい て、大阪国際宗教同志会(理事長三宅歳雄)の平成九年度第一回例会が、

毎日新聞社特別編集委員の横山真佳氏を講 師に開催され、在阪の各宗派から約三十名が参加した。



オウム事件以来、日本でもいわゆるカルト的宗教にどう対応すべきか議論される状況となってきています。本日は、そうした事情のもとに、今年の二月、日弁連(日本弁護士会連合会)が、ヨーロッパのセクト対策がどういう状況か調べに行こうと、調査団を派遣することになりました。その話を聞き込んだものですから、私の方からお願いして、調査団に同行させてもらい、実質一週間の、ほんの駆け足の旅でしたが、パリ、ベルギーのブリュッセル、そして最後はドイツのボンを回ってきました。 

本当にアッという間の短い日程でしたが、まあほぼ、「こういうことだろうか」という、納得を私なりにしました。そのリポートは毎日新聞に、わずか四回の連載ですが、載せました(三月二十日〜二十三日 当該新聞のコピーを配布)。本日はこれに関連し、いささか私の個人的な感想もまじえて報告をさせて頂こうということを思っております。よろしくお願いいたします。

結論的には、けっこう予想以上に、弁護士の皆さんも、びっくりしておりましたけれども、ヨーロッパでの対策が具体的に、各方面にわたり進んでおりました。各国の議会、政府機関、そして民間の市民団体も、いずれもたいへん積極的でした。 
日本でのオウム事件はヨーロッパでも広く知られていました。それで、「オウム事件が対策のきっかけの一つだろうか」との質問が、日本の弁護士の間からも出されていました。しかし、それだけではないようでした。ちょうど「太陽寺院」事件が起こって、カナダとスイスで集団自殺がありました。身近なのでしょうね、その衝撃が大きいようでした。

ともあれ、意外だったのが各国とも議会が特に積極的で、対策のリード役をしているのが窺われたことでした。日本の場合、国会が、特別委員会を設け、独自に調査研究をし、対策案を出すというようなことは、あまり聞かないのですが、フランスでも、ベルギーでも、議会が、特別調査委員会を作って、フランスが一番、先行していましたが、すでにきちっとした議会の報告書を作って公表していました。このフランス議会の報告書『フランスでのセクト』が出たのが昨年一月でした。ベルギーでも、この春には、報告書を公表するとの話でした。ドイツは来年夏に向けて作業中でした。

いずれも議員たちが先頭に立ち、調査権限を持っていて、事務スタッフも持ち、研究者はもちろん、被害者らの市民グループの意見を聴き、さらにヨーロッパでは「カルト」集団のことを「セクト」と呼びますが、そうしたセクト集団の組織の代表者も呼んで聴問したという話でした。これは、フランスでもベルギーでも、共にやっております。つまり、各国でセクト的集団と目されている統一教会の代表だとか、特に今のヨーロッパでは、一番問題視されている様子のサイエントロジー教団などですね。こういう組織の代表者を呼んで、みんなで質問をしたというのです。それは、公開であったり、非公開であったりですが、そういうのが、実に、ち密にきちっと行なう権限があるそうで、この権限をフルに使って事実関係をきっちり押さえていっている。 

言うまでもなく、以上は各国議会の動きですが、セクト対策というのは、実際、考えれば考えるほど厄介です。日本での、状況でも、オウムの問題が起って我々は大きな衝撃を受けました。やはりセクト問題というのが、とんでもない、大事な課題だということになってきています。しかし乱暴な対策では、大切な「信教の自由」を侵すことになりかねません。ヨーロッパ各国はどう対処しているのでしょうか。

タレントの桜田淳子さんらが集団結婚式に参加して話題をまいた統一教会では、南米ウルグアイで「地上天国」づくりをすると、文鮮明教祖が言い出して、多くの日本人信者が南米へ送り込まれています。週刊誌などが伝えている通りだと言われています。また今秋には米国ワシントンで三百六十万組の集団結婚式をやると言い出していて、日本人信者も、これに参加することになっています。ローンからお金を借りたり、実家に無理を言ったり、資金づくり、家庭トラブルが伝えられています。子供を置いて南米へ行く若いお母さん、現地での自殺事件も伝えられているのはご承知の通りです。統一教会やオウム真理教にかぎりません。セクト集団的な宗教は、いまや日本でも現実の問題で、他にも、微妙な線上の教団の活動も、けっこう見られるのは、これまたご承知の通りです。

ただ、しかし、このセクト(カルト)宗教の問題は、皆さん、お感じの通りで、どこで線を引き、どう対策ができるのか。やはり、れっきとした宗教法人なのであって、どこでどう線を引いてこれに対処していけるのか。というのは、下手に対処すると、宗教すべてを十巴一からげに網をかける、管理規制的な対応になりかねません。そうなれば、とんでもないことで、宗教管理だということになれば宗教界は、もちろん「待ってくれ」と申しますよね。セクト的宗教というのは、一方ではマインドコントロールの問題もあります。教祖や教団の言いなりのロボット人間というか、信者をそういうふうに人格を変えてしまう一種の洗脳のテクニックを持っている面もありますから、やはり怖い 
したがって、今回の調査団でも、一番の関心事というか、一番のポイントは、セクト的宗教をどう区分けできるのか、できないのか。セクト的教団も、宗教には違いないわけです。違いないけれども区分けは必要である。ヨーロッパではどうしているのか。その宗教の教え、教義とかを問うのではないのですね。その思想信条などは問わない。そういう宗教の部分を問題にして、区分けしたのでは、区分けは不可能だということが、一番先行しているフランスの場合でも早々に打ち出されました。それは私のリポートの最初にも書きましたが、そういう「宗教である、ない」というようなことを問うていったのでは重大な誤りを犯す。そうではなく、その集団の行為ですね。何を行なって、どういう社会的な問題を起こしているかという、外形的な行為の弊害、これこそが問題なので、これを問うていくんだというやりかたです。 

これは『ビビアン報告』と呼ばれるフランスの先駆的なセクト報告に始まって、一番大事な、ポイントなのですけれども、ヨーロッパのEU(欧州連合)の議会報告も、ベルギー議会も、それから、ドイツもみんな、ほとんど同じ立場です。宗教の中身は、問わない。棚上げするわけですね。宗教であるかないかというように詰めていかない。その宗教集団がどういう行為を行ない、どういう問題が起っているかということで、対処していくという方向を打ち出した。これがヨーロッパでのセクト集団に対する共通の立脚点でした。

フランスの議会報告書を見ても、一番最初に「セクトを定義することは、困難である」と書いています。そういう方向ではなく、問題の集団の「ある種の危険性」に着目し、それを見分ける指標として、次に、十項目の「危険性の判断基準」というのを列挙しています。この危険性の指標で、順にチェックしていく方法をとるわけですね。「精神の不安定化」。例えばあるセクト的宗教に入ったことで、「人が変わったようになってしまった」というような、そういう精神の不安定化。また「法外な金銭的要求」、「生まれ育った環境からの誘導的断絶」。むずかし言葉ですけれども、これは学生が、大学を中途退学してしまったり、社会人が仕事を放棄きして、集団生活に入ってしまうというような、そういうことですね。家族とは切れてしまう、そういうことですね。「健康な肉体への危害」「子供の強制的な入信」、「大小にかかわらず、社会に敵対する説教」、「公共の秩序を乱す行い」「多くの訴訟問題」。また「通常の経済流通からの逸脱」。法外な値段でのツボ売りとかは、やはり普通の売買ではないわけです。そういう普通の流通経済のルールからはずれた経済行為。また「国家権力への浸透の 企て」。

フランスでの話ですが、サイエントロジー教団などは、いろんな会社を所有していますし、また、公務員なんかになっていくわけですね。つまり、以上のような個々の問題性、それをその宗教集団の問題性として一つ一つ拾っていきます。該当する集団をセクト集団として法的に対処していくやり方です。 日本でもそうですけれども、宗教、信教の自由は、当然大事にしなければなりません。ヨーロッパ、ことにフランスの場合は「絶対分離主義」といわれるように、政教分離の原則でも、非常にきびしい国の筆頭だとされるわけですね。公的機関が宗教にかかわっていくのは、非常に慎重で非常にむつかしい。ですから「宗教を問うのでない」として、そういう政教分離の原則をうまくかわしていっている。そういうやり方ですよね。その上で、具体的な外的な弊害の問題を数えていくというか、取り上げていくことによって、どの集団が問題集団なのかを特定していく。この辺は断固としています。しかも教団名は実際に名前を出して報告している。

ところで、以上は、主として各国議会の動きですが、それでは政府、行政はどうしているのかということを次に見なければなりませんが、例えばフランスでは、首相直属の「セクト監視機構」と呼ばれる組織が、日本で言えば警察文部省外務省など11の省庁が入ってですね、セクト監視機構というものを組織している。ベルギーは、間もなくつくられる予定で準備中ということでした。
 どんなことをやっているのかは、フランスの監視機構はまず実態把握。また国民に情報を知らせていくということをやっているとの話でした。合わせて、セクト対策の提案を首相直属機関として対策、対応策を首相に提言する役目を負っている。定期的に、会合を聞き、啓蒙活動では、全国で警察官、学校の教師とかを対象に、セクト問題についての講習会を開き、組織的、計画的にそういうことをやっている。地方自治体と一緒になって推進している、という説明でした。

 関連して、日本などではなかなかこうは行かないと思ったのが、そういう議会や政府などの公的機関の動きと共に、被害者の、父母の会とかの民間の市民活動団体ですね。例えばADFIという、パリに本部を置く「被害者と親の会」といった組織が活動していますが、これが全国にネットワークを展開していて、さらに国境を越えて、ヨーロッパ各国の市民組織とお互いに連絡をし合っています。情報の交換をしているわけですね。しかもこれら組織が、公的機関の動きに合わせて、例えば政府組織のセクト監視機構が、各地で研修会を開くときなど、この民間のグループの活動家たちが、しばしば講師として招かれているわけですね。「一番セクトの実態をよく知っているのはこの人たちだ」と、議会の議員さんなんかが言いまして、市民グループの人たちを大事にしている物の言いかたをするのを感じました。被害者として悩み、一番苦労して、したがって、一番よく知っている専門家だというような言葉で説明する議員もいました。 

日本では、なかなかそうはいかない思いもするのですが、しかも同時に、そういう民間の組織に対して、実は公的な補助金の制度まであるのですね。日本では、これもまた考えられないのではないかと思いますが、補助金は、そのADFIという、フランスで一番大きい組織の場合、だいたい事業予算の3分の2ぐらいは補助金である。けっこう手厚い活動補助金を得て、それで十分な活動が行なわれている様子でした。全国で12支部あって、パリだけでも支部のもとに30もの活動拠点があるとの話でした。日常的な活動は、電話の相談、面談、そして出版物を出している。

ここでいささか感想めいたことになるのですが、それはヨーロッパでのセクト対応というのは、一つのタイプだという思いがしたということです。「ヨーロッパ型」というべきか、公的機関がセクト的宗教に対して、「宗教を問うのではない」ということで政教分離原則をかわして、そして積極的に介入していく。これがヨーロッパ各国に見られるセクト対応の基本的な姿勢ですが、他方アメリカなどは、もう少し「信教の自由」というものを尊重するたてまえから、公的機関はできるだけ宗教集団には直接的にはかかわらない。これを仮りに「アメリカ型」とすれば、日本などの現状もこのタイプではないかと思うのですね。ヨーロッパの割り切りには少しついて行きがたい感じがあるのではないでしょうか。

結局、ヨーロッパとアメリカとではセクト宗教に対応する、そのスタンスには違いがある。例のトムクルーズ主演の映画「ミッションインポッシブル」に対し、ドイツで上映ボイコット騒動が起こりヨーロッパ各国は支持した。しかしアメリカの世論は反発しました。セクトの問題性というのは、現実に社会問題としてあるのだから、これを排除していく、あるいは社会に警告していくという強い対応をしているヨーロッパ。それに対して、もう少し柔軟に、私的なレベルのことだとして、信教の自由にかかわる問題でもあるし、というので、公的機関はできるだけ関与しない立場のスタンスですね。このスタンスのズレから生まれたのがこの映画騒動でなかったかということになります。

その背景をさらに考えると、ヨーロッパという土地柄というべきものですね。そこがやっはりヨーロッパであり、ユダヤキリスト教の文化と社会なのだという印象が月並みですが感じられる。伝統的なカトリックと、プロテスタントの教会が社会の非常に重要な、やはり正統派として厳然として存在していて、だから新しい宗派や宗教が生まれ、あるいは外国から流入して来たときに、ヨーロッパの対応というのは、どうしてもきびしいものがあるのではないか。東洋系の宗教に対する、ある種の予断というものがあるのが感じられましたね。それはアメリカ生まれの新しいキリスト教系宗教についてもそうですね。サイエントロジーの問題にしましても、またエホバの証人(ものみの塔)とかまで、これはアメリカではまあ社会的に認知されている集団のはずでが、ヨーロッパでは許せないセクト宗教と公然と言われております。すると東洋の宗教に対するある種の偏見、合わせて新しいアメリカのキリスト教系宗教でも、やはり、伝統的なカトリック教会やプロテスタント教会の存在を前提に一つの尺度にしている社会においては、これは「うさん臭い存在」であると、こうなるらしい気配というものを感じ させられた。そんな感じなのです。我々日本人だって誰であろうと同じですが、何か毛色の違うものには警戒心を抱きますし、うさん臭い思いを持ちます。だから同じようなことであって、セクト対応でもヨーロッパではヨーロッパ的対応として現われるんだな、そんなことも思わされたということになります。

まとめれば、ヨーロッパの対応で言えるのは、次の二つかと思うんですね。とにかく宗教を問うのでないということで刑法とかの現行法を厳格に適用することで、セクト集団を排除していくという、こうした強い姿勢が共通して見られるわけだが、これはフランスでの話だが、法を厳密に適用して、いくつかのセクト宗教を追い出したというんですね。現行法を厳密に適応していけば、例えば統一教会の場合でも、追徴金を課すと、お金で動いている教団というのは、逃げ出した、と言っておりました。税法を適応するだけで出ていき、ヨーロッパでの統一教会の活動はいまや下火だと言うのです。ですから現行法を適用するだけで、相当のセクト排除も防止ができるということで進んでいるわけですね。 

もう一つは、セクトの問題は、結局、一般国民への情報提供の問題につきるということを言っていました。セクトの一番の問題は日本でもそうなんですけれども正体をかくして誘うことが多いわけですね。いろんな勧誘の手段を使い、街頭で、あるいは出版物を通し、またヨガ教室をやったり、自己実現のためのプログラムであるという売り方で誘います。人人は実体がわからないわけですね。正体がわからないまま、そして取り込まれるということが起こる。自己啓発講座だと呼びかけをしているけれども、実体はあるセクト的宗教が背景にいるんですよ、と警告のためにもどんどん実名で情報を出していって防止する。つまり一般への情報提供が、最大の防御になる、我々議会が調査報告を出したりするのはこのためだとも話していました。 

少々、話が変わりますが、今や、パソコンの時代ですよね。インターネットとかホームページとかの言葉がさかんに言われるような、そういう時代に、アッと言う間に入りました。これを問題のセクトとかカルト宗教などの問題と関連して考えると、これが結構、いやらしい大問題をはらんでいるのではないかと思うんですね。パソコンの画面に登場する集団が、どういう集団かいま一つよくわからないままに、メッセージがどんどん出され、そこにだれでもアクセスができるわけですね。そういうやりとりから興味をもって深入りしていくことが起こってきます。やっぱりとんでもないことが、現実になってきています。

もちろん宗教界の皆様は、安易な宗教管理など「まっぴらだ」と思っておられると思うのです。セクト対策も、ヨーロッパ流の対応策を直輸入して、ことがすむような日本の現状ではないわけですね。しかし情報通信革命は進行中で宗教状況は布教の仕方からして大きく変えられていくことになるかもしれません。セクト的問題と関連し、「情報革命のなかの宗教」が、いまや具体的な課題になってきている気がするものですから、一言、付け加えさせていただきました。(おわり)

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