三宅代表が『仏教タイムス』紙で、イラク戦争について提言  


04年01月15日


 レルネットの三宅善信代表は、業界紙『仏教タイムス』から依頼を受け、同紙が企画した『世界を読む 日本が見える:イラク戦争が問いかけるもの』と題する特集に、同紙の1月8/15日合併号に小論を発表し、各方面から注目を集めている。

(以下、『週刊仏教タイムス』紙掲載原稿)

『世界を読む 日本が見える:イラク戦争が問いかけるもの』                                                         
                                     三宅善信

  2003年12月9日、この日、小泉政権は、自衛隊のイラクへの派遣を閣議決定し、直ちに小泉首相自らが記者会見に望み、国民に理解を求めた。このことは、後世、日本の歴史のターニングポイントとして語られるであろう。しかし、あの会見を聞いて本当に納得した国民がどれだけいたであろうか? 日本国民ですら、十分納得できなかったのに、アラブ諸国の民衆が納得できるはずはないであろう。

  では、何が問題であったのか? 答えは簡単である。「本音を語っていない」ということの一語に尽きる。首相は、「日米同盟」の重要性を指摘しながらも、日本国憲法の前文まで持ち出して、「国際貢献」の重要性を説き、あくまで、人類としての普遍的な理念としての人道援助を強調したが、人道援助のための国際貢献というのなら、世界中に自衛隊が出て行って、戦乱によって困窮したすべての地域の人々を支援しなければならないことになるが、そこには行かずに、イラクにだけ派遣するというのには、やはり「米国からイラクに来るように言われたから」ということがあるのは明白である。

  正直に、「日本(の繁栄を維持するために)は米国の意向には逆らえない立場なのです。それとも、国民の皆さん、自分が正しいと信じる道義を貫くために、清く貧しく生きる覚悟はありますか?」と、有権者に問うべきであり、それで、国民が「自らの繁栄のためには、弱者を踏み台にしてもよい」という選択をすれば、それもまた民主主義の結果である。小泉政権には、常にそのプロセス(説明責任)が抜け落ちているのである。

  今回のイラク戦争と自衛隊の派遣の問題については、これまで既に多くの識者が意見を述べてきたので、私は少し違った歴史的観点から、「日米関係」にスポットを当てて、考えてみたい。振り返ってみると、日本の近現代史は、好むと好まざるとにかかわらず、常にアメリカ合衆国との関係において構築されてきたからである。

  まず最初の出会いからして象徴的である。今から百五十年前の嘉永六年(1853年)、ペリー提督の「黒船来航」(軍事的圧力による鎖国政策の変更要求)によって、250年間の長きにわたって盤石と思われていた徳川幕藩体制が一挙に解体へと向かって動き出し、その結果、「明治」という近代国民国家へと日本は生まれ変わったのである。まず、このことによって、人々は大きな艱難辛苦を味わった。

  次ぎは、大正七年(1918年)の「シベリア出兵」である。明治維新後、わずか半世紀で列強の一員となった日本は、第一次世界大戦への英仏両国からの再三にわたる参戦依頼(註:ドイツに東西二正面作戦を余儀なくさせる)を断り続けていたが、「(ロシア革命によって)シベリアに取り残されたチェコ人部隊を助けるため」という「人道的介入」を米国から促されて、ついにシベリアへ派兵する(註:八カ国による多国籍軍の指揮権を持つ)のである。それ以前の日清・日露戦争とは全く性質の異なる長期にわたる海外への日本軍の駐留という既成事実がこの時から始まり、その結果は、大東亜(太平洋)戦争へと収斂していくのである。

  さらに、昭和20年(1945年)、日本人と近隣諸国民に大きな犠牲を出した太平洋戦争が終結し、アメリカによる日本占領が始まるのであるが、そのことが、この国のあり方を大きく変えたことは言うまでもない。目に見える形の進駐軍は、六年間で日本を去ったが、その後、60年間の日本の政治・経済・文化のあり方を見ていると、今でも「米国に占領され続けている」と言っても過言ではない。

  このような観点から、150年間にわたる日本の近現代史を俯瞰した時、常にターニングポイントになってきたのは、アメリカとの関係の斬り結び方であると言えよう。今回の自衛隊の「イラク派遣」の是非を問う時、あまりにも状況が似ている1918年の「シベリア出兵」の際の日本政府の対応を検証してみる必要があると思う。その後、日本がどのような悲惨な運命を辿っていったのか、また、シベリアの地を軍靴で蹂躙されたロシア人たちが日本のことをどう思い、20数年後、ソ連は日本にどういう形で報復を行ったのかを今一度、思い出して欲しい。

戻る