三宅善信代表 松浦ユネスコ前事務局長と世界遺産について…

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 2010年4月23日、大阪市内のホテルで開催された日本国際連合協会関西本部(橋本守本部長)主催の講演会で講師を務めたユネスコ本部前事務局長の松浦晃一郎氏と、同協会の理事を務める三宅善信代表が意見交換を行った。

 パリに本部のあるUNESCO(国際連合教育科学文化機関)の事務局長をアジア人としては初めて1999年から2009年までの十カ年間務めた松浦晃一郎氏(元駐仏大使)は、米英両国が、近年ユネスコ本部が途上国を優遇しすぎることに反発して脱退していたものをユネスコの枠組みに復帰させるために、「保守派の牙城」であった米国のブッシュ(父)政権に直接切り込んだことや、国連の諸機関同士の業務分野の重複をいかに合理化するかについての機関同士の調整についての苦労談を話した。


松浦晃一郎前ユネスコ本部事務局長と三宅善信代表

 両氏の間で最も共感を得たのは、ユネスコの目玉事業のひとつである『世界遺産』の選考基準を、従来の西欧中心の尺度から、いかに他の文明世界をも公平に評価しうる基準に改めたかということである。ギリシャ・ローマ時代以来、欧州の建造物は基本的に「石造り」なので、たとえそれが千年間放置されていたとしても“遺跡”としての「authenticity(原型)」が残るけれども、基本的に「木の文明」である東・東南アジア地域や、「土の文明」であるアフリカ大陸の歴史的建造物は、たとえばそれが“神殿”であれば、人々がそれを千年間にわたって「生きた信仰の対象」として礼拝し続け、常に修復され続けなければ建物の“原型”が維持できないが、西欧の基準では、「それは千年前に造られた“原物”そのものではなく“贋物(imitation)”だから世界遺産とは言えない」ということになってしまう。

 しかし、確かに千年前に建造はされたが、人々からとうの昔に放棄されてしまった“遺跡”と、千年間にわたってずっと人々の信仰の対象であり続けた“神殿”とでは、後者により文明史的価値があることは言うまでもないことである。このように、「欧米標準がグローバルスタンダードである」という悪弊を欧米人に理解させ、これを訂正させることがいかに難しく、かつ、いかに意義のあることであるかということの照査である。



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