「ヤマトの諸君」:プーチン首相の正体
 
              
        00年01月03日
 
レルネット主幹 三宅善信     

▼核戦争の危機?

「Y2K問題」で大騒ぎしたミレニアムも無事何ごとも起こらずにスタートした。といっても、コンピュータの世界だけのことである。キューバのある新聞は「Y2Kは、コンピュータ関連の消費を拡大するための国家資本主義勢力の陰謀」という皮肉を正月号のトップ見出しに掲げたそうだ。かくいう私も、年末にかけて、東証史上最大規模の値上がりを記録したトランス・コスモス社の株式を、同社が店頭時代から相当数所有していたので、「2000年問題」に乗じてかなり儲けさせていただいた「金融資本主義の手先」の口だ。私自身は、「Y2K」騒動については茶化しこそすれ、全然気にしていなかった(というよりメカのことはサッパリ判らない)が、わがレルネット社も社内LANをはじめインターネットと繋がっているシステムのため、熱心なスタッフが大晦日の夜に出勤し、「念のため」とパワーを落としてしまったので、今回は、仕方なく、システムから切り離されたノートパソコンでの執筆である。

核超大国アメリカとロシアの間で「コンピュータの誤作動によって核戦争が勃発しないように、相互のシステムを公開し合うという苦肉の策がとられた」というニュースを聞いたが、いつの世にももっと恐ろしいのは、コンピュータの誤作動よりもむしろ人的ミス、あるいは作為的ミスのほうだ。「米ソ冷戦時代」から1度だって核ミサイルを打ち合ったことなんてない(あったら人類文明の破滅)のだから、はじめから、この日(2000年1月1日)は「いかなる命令があってもミサイルも発射してはいけない日(たとえ、防空システムが誤作動しても、応戦体制をとってはいけない日)」ということに、相互でお約束しておけばよいではないか…。

いや、もう一歩進めて、米・露両国だけでなく、毎年、元日は「世界平和実現の日」とでもいうべき「人類の祝日」にして、この日は、全世界で一切の武器使用を禁止すればよい。「相手(仮想敵)が(武器を)持っているからこっちも持つ」という相互不信の関係から、「相手が(武器を)使用しないと信じて、こっちも準備しない」という相互信頼醸成のきっかけを作ればいい。ついでに、毎年1月1日を「どの曜日にも属さない日」にしてしまえば、1年間の残りの364日の日付と曜日が固定できるので、とても便利だと思う。4年に1度の「閏年」(厳密には、400年間に3回「閏にならない閏年」が回ってくるが)の年には、2月29日も「どの曜日にも属さない日」にしてしまえばよい。


▼エリツィン辞任は日本のせい?

さて、そのようなミレニアムに相応しい雄大な妄想を巡らしていたら、驚くべきニュースが飛び込んできた。「ロシアのエリツィン大統領が31日正午(日本時間同日午後6時)からテレビを通じて国民向けに演説し、2000年夏までの任期を前に同日付けで大統領職を辞任すると表明した。憲法の規定により、プーチン首相が大統領職を代行し、3カ月以内に大統領選挙が行われる」という内容だ。「米・露間の核ミサイルの誤発射を防ぐための戦略防空システムの相互公開」どころか、片一方の「核のボタン」を握っている男を、何の予告もなしに急遽変更するというのだ。これがもし、クーデターか何かであれば、コンピュータの誤作動どころの騒ぎではない。「何もこんな2000年問題のややこしい時期を選ばなくとも…」と思ったのは私だけではあるまい。

 ほとんどの人は気が付いていないかと思うが、今回のエリツィン大統領辞任劇の原因の一部は日本政府にある。といっても、「北方領土問題」などではない。それは、1年半前のバーミンガムサミット(G8=主要国首脳会議)の席で、エリツィン大統領は、突如こうぶち挙げた「2000年のサミット会議はモスクワで開催したい」と…。4回目のサミット会議開催となる日本政府は考えた。「ここでロシア政府に貸しを作っておけば、2000年までの領土問題の解決も夢ではない」と…。言うまでもないが、サミット(ロシアが入るまでは、G7=先進国首脳会議と言われた)会議は、フランスの故ジスカール・デスタン大統領の提唱によるもので、そのせいもあってか、仏・米・英・独・日・伊と、第2回から加わったカナダの7カ国が順次持ち回り開催する(第3回からはECも代表を出しているが開催権はなし)ことになっている。それが、たまたま2000年という節目の年に日本開催の順番が回ってきたのである。

 レーガン・サッチャー時代には、G7は「悪の帝国」ソ連の包囲網の意味合いもあったが、ゴルバチョフの登場以後、方向が急転換し、あろうことか、かつての敵ロシアが「仲間入り」して、G7+1ということになり、最近では、正式メンバーとしてG8ということになった。これまでの慣例からすると、当然、ロシアでのサミット会議開催は2003年ということになるが、そこまで待てないエリツィン大統領は、日本に揺さぶりをかけて来たのである。当初日本政府は、「ロシアに開催権を譲って(エリツィン大統領に「貸し」を作って)、日本開催を21世紀最初の年である翌2001年(G8の中で唯一「キリスト教国」でない日本にとって、キリストの生誕を祝うミレニアムそのものには、あまり意味がない)でもいい」と考えていた節がある。ところが、2001年と2002年にサミット開催を用意しているイタリアとカナダから、「日本がロシアに譲るのは勝手だが、その場合、日本の開催は2001年ではなく2003年だ」と言われて、とてもそこまでの長期政権は望めない小渕首相が「やはりロシアには譲れない」といった経緯がある。もし、今年の初夏にモスクワでのG8サミット会議が開催されていたのなら、エリツィン大統領は絶対、この時期に辞任なんかしなかったであろう。


▼プーチン「総統」誕生

 この突然のエリツィン大統領辞任劇で、エリツィン氏から後継指名を受けたプーチン首相という人物については、日本ではまだまだ馴染みがないだろう。2年前の金融危機以来、すっかり威信の低下したエリツィン大統領は、相次いで数人の首相の頸をすげ替えることによって、かろうじて政権を維持してきたが、チェルノムイルジン氏とプリマコフ氏以外の何人かの首相は、在職期間と業績が少なすぎて、名前と顔が思い浮かばないのが正直な感想だ。かくいうプーチン氏も、昨年8月に首相に就任するまではまったく無名だった。その後、チェチェンの武装勢力に対する強硬姿勢が国民に支持され、最近では「次の大統領に最も近い人物」といわれるまでになった。最新の世論調査では支持率が50%近くに達し、次期大統領選の第1回投票での当選(過半数の得票が必要)も可能な勢いを見せている。

 ロシア人の政治的指導者に対する好みというのが、われわれ日本人と大きく異なっているのは、どうやら確かみたいだ。日本人にとってみれば、どう見たってゴルバチョフ氏のほうがエリツィン氏よりも、人格見識ともに一国の指導者に相応しいように見えるが、ロシア人のゴルバチョフ氏に対する評判は散々だ。70年間にわたるソ連社会主義体制の幕を引いた歴史的人物を、ロシア人はまるで弊履を捨てるかのごとく見限った(このへんは、徳川慶喜と似ているのかもしれない)。先月行われた議会選挙でも、よほど経済発展が望めそうなチェルノムイルジン氏やプリマコフ氏の勢力は後退し、かえってジュガーノフ氏率いる共産党が健闘したくらいだ。その中でも、チェチェン問題に対する強硬姿勢(軍事侵攻)を貫いたプーチン首相の勢力が躍進した。事実、プーチン氏に対する高い評価を私は、直接、旧知の仲である前在大阪ロシア連邦総領事のコマロフスキー博士から聞いた。ロシア人は強力な指導者がお好きみたいだ。

 ところで、読者の皆さんはプーチン首相兼大統領代行の顔写真を見て、誰かの顔を想起しないだろうか? 私は、昨年8月、プーチン氏がロシア政局の表舞台に登場した時に咄嗟(とっさ)に思った。「この人デスラー総統に似ている!」と…。まさかデスラー総統を知らない人はいないと思うが、念のため一応、紹介しておく。今から二十数年前に一世を風靡したアニメ『宇宙戦艦ヤマト』の名敵役、大マゼンラン星雲にある「ガミラス大帝星」の独裁者のことである。デスラー総統の「総統」とは、大統領と首相を兼任した絶対的独裁者という意味であろう。歴史を紐解いても、第一次世界大戦で疲弊したドイツ(戦前は、プロイセン「ドイツ帝国」)を復興させようとした「ワーマール体制の「ドイツ共和国」の下、着々と勢力を蓄えたヒトラー率いるナチス(国家社会主義労働者党)が1932年夏の総選挙で第1党になり、1933年1月、ヒトラー首相就任。1934年8月、ヒンデンブルク大統領の死去に乗じて大統領も兼任し、国家の全権を一手に掌握、文字通りの「総統」となり、ドイツは平和主義のワイマール共和国から、対外強硬路線の「第三帝国」へと変貌を遂げた。その後の悲劇は、歴史が照明するところだ。

 これをロシアの歴史に当てはめてみると、第一帝国(中世の神聖ローマ帝国)が、ロシア帝国。プロイセンのドイツ帝国が、ソビエト社会主義連邦(帝国)。そして、ヒトラーの第三帝国が、ロシア民族主義を標榜するプーチン「総統」によるロシア連邦と言えなくもない。「2000年までに領土問題を解決して、日露平和条約の締結を」などという甘い話がどこまで通じるものか…。日本の外交団がモスクワにのこのこ出かけていって「ヤマトの諸君!」と叱咤される姿が目に浮かぶ。聞くところによると、チェチェンの首都グローズヌイを包囲したロシア軍は、世界がミレニアムのお祭り騒ぎをしている間隙をつくようにして、湾岸戦争で悪名を馳せたあの「スカッドミサイル」を3発ぶち込んだそうである。右手では、米・露による戦略核ミサイルの誤発射を防ぐための共同オペレーションをしながら、左手では、スカッドミサイルを実戦に用いるとは…。周到に準備された作戦といえよう。

 私は、ロシアが再び「悪の帝国(かつてレーガン米国大統領がこう呼んだ)」にならないよう、このプーチン「総統」とロシア政局のこれからを非常に注目して行きたい。因みに、わが日本国外務省の「突然変異」とすら言われている。国際情報局の佐藤優主任分析官を中心とした若手のグループ「佐藤チーム」も、ロシア国内で活発に情報収集を行っているが、佐藤氏は、私の同志社大学神学部時代の1年後輩である。正月早々の私の戯けた妄想よりも、彼の努力が報われることを「運命共同体ヤマトの乗組員(日本人)」の一員としては祈るのみである。


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