USJは大阪を救えるか?
       01年 3月29日
 
レルネット主幹 三宅善信

 東京ディズニーランド(以下「TDL」と略す)に匹敵する本格的テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(Universal Studios Japan以下「USJ」と略す)」が3月31日、大阪にグランド・オープンする。一般公開に先駆けて、筆者はこれまで2回(昨年12月21日と本年3月7日のプレビュー)現地を訪れ、数々のアトラクションを楽しんだ上に、3月2日には、同社の阪田晃社長から直接、『USJのコンセプトと今後の戦略』について聴く機会に恵まれた。春休み中でもあるので、今回はUSJについて取り上げたい。



メインキャラのWoodyと2ショットで

  そもそも「ユニバーサル・スタジオ(Universal Studios)とはいかなるものか?」についてご存じない方は、当サイトの読者にはほとんどおられないであろう。アメリカ文化の象徴のひとつである「映画の都」ハリウッド(Hollywood)に数ある映画製作会社のひとつ「ユニバーサル」が、撮影現場のセットそのものを遊戯施設化したものである。分かりやすく言えば、NHKの朝ドラ『オードリー』でお馴染みの京都の太秦(うずまさ)にある「映画村」のようなものである。もっとも、規模やアトラクションの質は大いに異なるであろうが…。このユニバーサル・スタジオは、世界的テーマパークとして成功したディズニーランド(Disneyland)の後を追って、カリフォルニアからフロリダに進出し、さらなる大成功を収めた。そして、その「世界進出」の第一弾として、大阪が選ばれたのである。ディズニーランドが東京で大成功を収めた「二匹目のドジョウ」を狙って…。


▼『Back to the Future』と『E.T.』は最低

せっかくの機会だから、理屈を垂れる前に、具体的なアトラクションについての私自身の感想を述べるので、遊びに行かれる際の参考にしていただければ幸いである。グランドオープン(一般公開)したら、当初は2〜3時間待ちといった状態がざらになるであろうから、貴重な時間を無駄にしないためにも、『主幹の主観マニュアル』はお役に立つであろう。USJの公式サイト以外にも、既にネット上では、数々の「非公式サイト(例えば、http://www.usj2.co.jp)」が開設されているが、その中で前人気の高いサイトである『Back to the Future the Ride』と『E.T. Adventure』については、ハッキリ言って期待外れである。

『Back to the Future』は、3本作られた同映画に登場する自動車型タイムマシンであるデロリアン号に乗って、作品中で悪役を務めたビフが奪って逃げたもう一台のデロリアン号を、これまた作品中で天才発明家ドクの指示によってこれを追いかけて取り戻す。というストーリーになっているのだが、客のイマジネーションを掻き立てるような内容が全くない。一応、タイムマシンという設定なので、過去の恐竜のいる時代(まったく、『Jurassic Park』と被っている)や火山が噴火しているような場面に行きハラハラドキドキするという設定だが、本来の『Back to the Future』とのストーリー上での関連性はまったくない。高速で飛びまわっている画面に合わせて、上下左右に動く8人乗りのロデオマシーンに過ぎない。あんなもの喜ぶのは、中学生以下のガキだけだ。私は、プログラムが作動して10秒で気分が悪くなった。あとの数分間は、単なる吐き気を我慢するだけのつまらないアトラクションだ。あんなものが楽しいのなら、ガタガタ道をオンボロ車で走ればいい。単に三半規管を刺激するだけの低レベルな遊戯だ。『Back to the Future』で、一躍スターとなった主役のマイケル・J・フォックス(パーキンソン病で芸能界から引退を余儀なくされた)が知ったら怒るであろう。もっとも、同氏は、病身を押してUSJのオープニングセレモニーの出席するらしいから、律儀なもんだ。

次なる「駄作」は、『E.T. Adventure』である。これも、あの映画史上に残る観客動員数を記録した「名作」を冒涜している。工夫が見られるのは、アトラクションの導入部分(ほとんどのアトラクションが、観客を「待ちくたびれさせない」ために、導入部に、場面設定のための内装が施されている)の「室内森林」だけである。『Star Wars』の「緑の惑星エンドア」のモデルにもなったサンフランシスコ郊外のレッドウッドの森(高さ70mのセコイア杉が鬱蒼としている)を再現していて、これから始まるであろう壮大な物語を予感させる。ところがどうだ。こから展開する話が馬鹿げている。地球にE.T.が来てしまったことで、E.T.の故郷の惑星が深刻な環境危機に陥ってしまい、彼の自然治癒力(healing power)でこれを回復してほしいというメッセージが地球に届くのである。E.T.は彼(?)個人のことではなくて、種族のことではなかったのか? 「E.T.(Extra Terrastrial=地球外生命体)」という名称が指し示すとおり、彼らは宇宙人(種族)である。脅威の自然治癒力は、彼個人のこのだけではあるまい。それとも、地球にきた彼は、E.T.族の中でも特別のカリスマだったのか…。



クリーチャーの造作は低レベル

 実際のアトラクションの部分が笑わせる。映画のクライマックス・シーンで、E.T.を助けたいばっかりで、自転車(大阪の下町の自転車屋で作られた)彼を連れ出し、警察等の追手から逃げ回ったエリオット少年たちが、間一髪捕まりかけた時に、E.T.の超能力によって自転車ご空を飛ぶシーンから拝借して、9人乗りの自転車(ゴンドラ)に乗ってパトカーに追い掛け回された挙句、有名な月面の前を横切るシーンで、無事、地球を脱出し、E.T.の故郷の星へ到着。安物のクリーチャー(今日び、幼稚園児でも納得しないようなクラゲ型宇宙人やチューリップに目と口を付けたような生命体)のから歓迎され、故郷の星の豊かな自然を取り戻す。という趣向である。乗り物の感じは、TDLの『Peter Pan』を想像していただくと、ピッタリである。このアトラクションも幼稚園児向きである。


▼アメリカ人もびっくりスヌーピー



ジュラシック・パークのゲート前で

 次に、USJの目玉施設とも言える『Jurassic Park the Ride』について記そう。ハッキリ言って、最も大掛かりで金の掛かっている施設である。私が知っている竹中工務店の人がこの工事を手がけたので、あまり悪口を言いたくないが、巨大な岩やら映画にも出てきた「Jurassic Park(恐竜動物園)」の物々しいゲートなどはよく造作されているが、肝心の恐竜たちに迫力がない。あの映画のシーンで忘れられない「恐竜島」に上陸した科学者たちが、大草原でのんびりと草を食む恐竜たちの群れを目の当たりにしたときのあの光景が再現されていないのである。たかだか2・3匹の恐竜が水中から顔を出すだけである。これなら水中からゾウたカバが顔を出すTDLの『Jungle Cruise』と変らない。しかも、『Jungle Cruise』のほうがまだ、一緒に乗り込んだ19世紀的探検服ルックのキャストがいろいろと楽しましてくれるだけましである。せめて、周りのジャングルが鬱蒼(うっそう)と茂っていてくれたら、それなりの雰囲気というものがでるのであろうが、南国情緒を演出する相当の本数のヤシの木やシダ類が、まだ移植したばかりで、寒々としているのが寂しいが、これらの問題は数年経てば、雑草も茂ってそれなりの雰囲気は出てくるだろう。

後半部の、いよいよベラキラプトル(映画の中で、少年たちを追い掛け合いを演じた知能が非常に発達したカンガルー大の肉食恐竜)が出てくる建物の中のシーンであるが、これが全くの迫力不足である。『JAWS』のような、まさに襲いかからんとするような迫力が全然ない、単なる小さな恐竜の動く置物だ。最後に出てくる真打(しんうち)T-レックス(ティラノサウルス=最強の肉食恐竜)も、われわれが乗っているボート(これを「Ride」と呼んでいる)の真正面のスクリーンに現れたかと思ったら直ぐに、ボートがほとんど50度はあろうかという急斜面(重力マイナス落下の加速度でお尻が浮く)を滑り落ち、池にザッブーンと突入する。ボートの端の席に座ったお客はびしょ濡れだ。「本場」ハリウッドやフロリダなら一年中温暖な気候なので、水飛沫(しぶき)を浴びること自体、楽しい思い出かも知れないが、日本の冬なら洒落にならん。風邪引いたらどないしてくれる…。

逆に、「本場」アメリカのUniversal Studiosにはなくて、USJにだけあるのが、『Snoopy's Playland』である。Snoopyは、アメリカでは全く別のアミューズメントパーク「Nut's Berry Farm」のキャラクターである。USJを開設するに当たって、DisneylandのMickey Mouse的キャラクターをユニバーサル映画社のメインキャラクターであるWoody Woodpeckerに期待したのであるが、私のようなアメリカ製TV漫画(cartoonと呼び、日本製のanimationとは区別される。例えば、『Bucks Bunny』や『Tom & Jerry』等)を視て育った世代には、『Woody Woodpecker』も懐かしいキャラではあるが、残念ながら今の青少年はWoody Woodpeckerを知らないのが大半だ。だから、日本国内(USJ)だけ限定で、日本でも人気のあるSnoopyの権利 を買ったのである。アメリカ人がUSJに来てみたら、ビックリするであろう。


▼宗教的な『終末者(Terminator)』と『洪水世界(Water World)』

あまり悪口ばかり言っていてもしょうがないので、良かったアトラクションを紹介しよう。まずは、『Terminator 2: 3−D』である。Cyber Dyne社が開発した超防衛システム「Sky Net」が暴走し、ロボットが人類を一掃しようとする近未来社会から人類の未来を救うことになる少年を抹殺してしまおうとする液体金属型ロボット(Terminator)と、滅亡寸前の未来の人類がこの少年を守るためにタイムマシンで派遣したTerminator(A・シュワルツネッガー) が死闘を繰り広げるという映画であるが、このアトラクションは、他に多くある「Ride(客を乗り物に乗せて運ぶ)」ものではなく、実際に観客が、Cyber Dyne社を「見学する」という設定になっている。Cyber Dyne社を見学に訪れた観客一行は、同社のプロモーションビデオ(防衛システム「Sky Net」がいかに画期的な事業かを紹介=同社も将来、このシステムが暴走して、人類を破滅させるとは考えていない。そこに、未来のレジスタンスからのメッセージを受けた破壊工作員=「少年」とその「未婚の母」がテロ行為を行うという設定)を見せられる。




ご存じターミネター

 そのCyber Dyne社側のコンパニオンが出色である。アトラクションの導入部分に登場する真っ赤なスーツに身を包んだ「綾小路麗華(?)」という名のお姉さんが、オーバーな演技(吉本新喜劇の島田珠代をイメージしてほしい)で、観客と掛け合いで同社の事業を紹介しながら物語りをリードしてゆくのであるが、本場アメリカの観客と比べて、「ノリ」の悪い日本人の観客との間での「やりとり」は、それ(予め「織り込まれた」すれ違い具合)を見ているだけも楽しい。メインのアトラクションも、劇場で大きな3-D画面(荒廃した未来の地球)を見ながら、ステージ上では、少年(演じている役者はかなり年齢を食っていたが)と母、それにシュワちゃん役の男、Cyber Dyne社側のガードマン、6台のTerminatorたちがマシンガンを撃ったり、バイクを乗り回したり、結構な演技である。これらがスクリーンとステージを行ったりきたりしながら物語が進行して行く。ハッキリ言って鑑賞に堪えられる質である。ショーを見終わった後、よく考えてみると、Terminatorは「終末(をもったらす)者」という意味だし、結果として「終末」の世界を救うことになる「少年」と「未婚の母」は、イエスとマリアを暗示している宗教的作品だと思った。



プールに着水した水上飛行機

 さらに楽しいのが、3,000人収容の観客席を持った『Water World』だ。日本各地のマリンワールドやサファリパークなどにあるイルカやシャチのショーを見せるための施設のでかいのを想像していただければよい。イルカやシャチが泳ぎ回るプールの代わりに、ジェットスキーに乗ったキャストが飛び込んだり水飛沫を掛け合ったりしながら、「ノアの方舟」よろしく、地上のすべてが水没してしまった世界(Water World)で細々と生き残った善良な人類(映画では、ケビン・コスナーが演じている)と、「地球上のどこかにある」と信じられている「Dry land(大地=ガイア)」を探して一番乗り(独占)しようとしている悪漢ディーン一味との戦いの物語だ。日本のアニメで譬えたら『北斗の拳』のケンシロウ(正義)とラオウ(悪)の戦いとほとんど同じ設定だから、ストーリー的には新鮮味はないが、ディーン一味が攻め込んできて大暴れし、美女(主役の恋人)を連れ去ろうとして最終的な戦いとなる。と極めてシンプルであるが、高さ10m以上はあろうかというセットから飛び降りたり、大きな炎が吹き上がったり(よく消防署が許可したものだ。これは『JAWS』や『Backdraft』のアトラクションにも言える)して、迫力がある。最後に、背面の壁を飛び越して、実物大の水上飛行機が着水するシーンなんかは圧巻だ。


大規模な爆発・火災シーン

 何よりも、『Terminator』同様、実際に、地元採用の日本人と海外採用(ほとんどはオーストラリア人)が適当に混じり合って、単なる映像(観客の反応と関係ない)やハイテク技術に頼るのだけでなく、その日のお客さんとの「掛け合い」を通じて、ストーリーが展開してゆくのが楽しいし、キャストの練度も必要となろう。『Water World』を鑑賞するのなら、ビニル合羽を着て、中央のゾーンの前列5行目くらいまでが、いい席であろう。私がプレビューを見に行った日は、限られた招待客(関連企業から入場券を貰ったのか、ほとんどの客は、遊園地には相応しくないビジネススーツを着たおじさんだった)の日であったにもかかわらず、ふと数列前でキャーキャー盛り上がっている若い女性客に目を遣ると、なんとそこには、わがレルネット社のスタッフたちがいるではないか! 社長以下、仕事サボっても来るところは同じというのが、なんとも言えず、楽しい会社ではないか…。「プラチナチケット」のはずのプレビュー招待券をそれぞれ、別ルート(TDLからの伝らしい)で入手してくる技も大したものである。と、思わず感心した。


Relnet's Angelesは美女揃い

▼ディズニーランドは"宗教"である

  さて、これからは、いわば「本題」とも言える「USJの大阪経済および文化に与える影響」について、考察を進めてゆきたい。冒頭から縁起の悪い話で恐縮だが、最近、日本各地で地方の「大型」レジャーランドが立て続けに閉鎖(倒産・破綻)した。四国随一の遊園地「レオマワールド(Reoma World)」や、昨年の太平洋・島サミットや九州沖縄サミット蔵相会議会場にもなった宮崎県の「シーガイア(Sea Gaia)」である。多くの地方のテーマパークが破綻の危機に晒されているのを後目に、ここ何年間か「テーマパークの観客動員数世界一」を誇っているTDLの一人勝ちである。これらの「大型」テーマパークは、バブル経済真っ盛りの時期に成立したいわゆる『リゾート法』(1987年)に乗って、「商圏」の集客力等の調査もせずに、「箱もの」造りだけやって「中身(ソフトやノウハウ)」を軽んじた結果、「経済環境の変化や当初の予想外(?)の不振」によって、破綻すべくして破綻したのである。特に、行政と民間の「悪いところを足して2で割った」ような「第三セクター」方式と呼ばれるものは、テーマパークに限らず、工業団地開発でも埋め立て(干拓)工事でも、ほとんどアウトである。

  というよりか、戦後、日本で行われた大規模イベントやテーマパークのうち、本当に成功したのは、たった3件しかない。第1番目は1964年に開催された東京オリンピックであり、第2番目は1970年に大阪で開催された日本万国博覧会であり、第3番目が1983年にオープンしたTDLである。東京オリンピックは、戦後日本の国際社会への復帰をアピールすると共に、TVの「宇宙中継」という画期的な手段の出現により、世界中の何億人もの人々が同時に同じ画面を見る(瞬間に立ち会う)という人類史上かつてなかった次元へと導いた。大阪万博は、大量生産・大量消費という大衆社会の出現を目の当たりに見せてくれた。6カ月間に6,500万人という信じられない動員数を記録した博覧会は、百数十年にわたる世界のEXPO史上、空前絶後の記録である。最も多くの観客が来場した日には、70万人!の人々が、あの千里の万博会場に押し寄せたのである。新しい都市がひとつ出現したと言っても過言でないくらいだ。

  ただ、これらのイベントは、日本が国威をかけて取り組んだイベントであったし、たった2週間(オリンピック)や半年間(万博)の、いわば「一過性のイベント」である。それに比べて、TDLは、オリエンタルランドという一民間企業が設置・運営しているテーマパークであり、しかも、既に18年間にわたって成功をおさめている事業である点がすごいことである。その間、バブル経済の最盛期もあれば、平成不況のどん底期もあったが、どちらの期間中も、TDLは常勝将軍の王道を歩んできた。当然のことながら、「2匹目のドジョウ」を狙うUSJが、この常勝TDLを意識しないはずはない。日本の他の多くのテーマパークと比べて、TDLの最大の特徴は、いわば「完成しない魔法の王国」であるということである。観客に飽きられないように、常に設備(箱もの)やアトラクションの中身を更新してきた。いわゆる「リピーター対策」である。驚くなかれ、TDLに来ている観客の97〜98%がリピーター(2度目以上)だというのである。目の前に100人のお客がいるとすると、全くの「ディズニーランド初体験」というお客は、たったの2〜3人ということだから、初めて連れてきてもらった赤ちゃんか観光旅行で日本を訪れた外人客くらいのもんであろう。さらに驚くべき数字は、来場者の50%以上が「10回以上TDLを繰り返し訪れたことがある。また来たい」と言っていることである。もう、ある意味で「TDLは"宗教"の域に達している」と言えよう。


▼USJ 成功への諸条件

  しからば、USJが商業的に成功をおさめるためにすべきことは、明白である。すなわち、まず、コンテンツ(contents=中身)はあるか? 分かりやすくて、普遍性があり、幅広い層に受け入れられる内容か? 世界的ブランドを有しているか? という問題である。極北のイヌイット族(エスキモー)から灼熱砂漠に暮らすベドウィン族に至るまで、ミッキーマウスを知らない人はいないであろう。その点、マスコットキャラクターの人気では、今ひとつ劣るUSJではあるが、世界中に映画を配給しているユニバーサル映画の作品群が背後にあって、その中から、アトラクションに向くものを次々と持ってくることができるUSJには可能性がある。

  次に、立地上のメリットはあるか? 陸海空の交通アクセスの整備や、周辺のバックヤード(都市の集積力)があるか? という問題がある。USJの最大の「売り」は、交通アクセスの良さである。陸海空ともに最高である。まず、JR大阪環状線(東京の山手線に相当)の至近駅である「西九条」駅からJR夢咲線でたった5分で、USJのメインゲートのすぐ前にある「ユニバーサルシティ」駅へ来ることができる。しかも、大阪の玄関口であるJR「大阪」駅からは、(環状線→夢咲線)直通電車でたった13分の距離である(因みに、わがレルネットの最寄り駅「大正」からも11分)。新幹線の「新大阪」駅から「大阪」駅までは5分である。しかも、USJは都心のベイエリアを再開発したので、同じく十数年前に再開発して、世界最大級の水族館である『海遊館』を中心に大成功をおさめた天保山ハーバーランド(大阪港のメイン埠頭にある)の安治川を挟んだ対岸に立地し、海上アクセスも豊富である。当然、神戸や関空(関西国際空港)からの高速艇によるアクセス(約30分)も整備されるであろう。阪神高速道路の大阪湾岸線の出口もすぐ目の前だ。海上空港である関空の発着枠も余裕があるし、大阪市内のホテルも収容力には十分余裕があるというよりも、これまで空室が多くて困っていた。

  通常、テーマパークの商圏を「日帰り」可能な200km圏と仮定すると、地元近畿地方だけでなく、名古屋から広島までがこれに含まれるから背後人口は3,500万人に達する。大阪の周辺には、京都や奈良といった外国人観光客を集客することのできる都市もあるので、韓国や台湾あたりからの年間100万人づつに及ぶ日本への観光客の出口か入口として関空を使って(大阪にステイして)もらえれば、これらの外国人観光客も十分計算に入れることができる。事実、ソウルや台北・香港あたりでは、TDLとUSJをセットにしたパック旅行が既に販売されているそうである。日本最古の都である「難波宮(なにわのみや)」の時代から、大阪はアジア世界に開かれた国際港湾都市であった(上田正昭氏の『環日本海文化と東アジアの宗教』を参照)。USJの皮算用によると、入場料は大人1人5,500円だが、園内での食事・買い物等で1人当たり10,000円使うとして、初年度の入場予想者数800万人を掛け算して800億円の収益を見込んでいる。たぶん、800万人というのは少な目に評価した数字(4月5月は前売り券完売!)だろうから、物珍しさもあって、初年度の1日の入場者数を30,000人平均とすると、年間約1,100万人(TDLの数字に近い)がUSJに来場するものと思われる。



案外「狭い」USJの敷地。中央がラグーン

 しかし、TDLの場合でも学んだように、この種の施設は、あたかも"宗教"のごとき、"信者(リピーター)"をどれだけ作るかが勝負だから、USJもかなり、会場の快適環境づくりに努めている。USJの全敷地54haのうち、駐車場が15ha(4,000台収容)を占めているから、実際のパークの面積は39haに過ぎないので、かなり狭い感じ(650mX600mという広さを想像してほしい)がする。パークの中には、中央に「ラグーン(lagoon)」と呼ばれる大きな池があり(TDLの「シンデレラ城」に当たる)、各アトラクションのための建造物などを除くと、実際に人間が立って歩ける面積はかなり狭い(蛇足だが、このラグーン周辺の施設を、レルネット社のスタッフのご主人が施工した)。そこで、「炎天下で何時間も待たされた」などというお客が発生しない(二度と来なくなるらない)ように、同時に園内にはいっている入場者数が39,000人に達すると入場制限をかけるこによって、アトラクションの「質」を維持しようということになっている。朝から晩の閉園までずーといる人は、むしろ少数派だろうから、途中で「出た」人の数だけ、1,000人づつ入場させるように入場コントロールがされるようになっている。その(予測計算する)ためにも、発売入場券の内、常に30〜40%は「前売」券だそうである。ともかく、設計上の一日最大入場者数は、MAX時の3分の1の人が入れ替わったとして、52,000人に想定して計算されている



「水の都大阪」に相応しくラグーンの造作は上出来


▼オーランド市に学べ

  それでは、USJは「地盤沈下」の著しい大阪経済にあって、いったいどういう効果をもたらすのか考えてみたい。私が小学生の頃(東京五輪〜大阪万博)までは、大阪府の工業生産高は東京都のそれより大きかった。その後、日本の産業構造が変化したとはいえ、今では神奈川県や千葉県以下である。これを称して「東京への(政治・経済・文化の)一極集中化」と言う。私は、十数年前に中国への香港の返還が決まった際に、大阪の地盤沈下脱却の起死回生策として、(共産主義「中国」に一体化されることを恐れている)香港の金持ちや技能者20万人程に、大阪港沖に造成された大阪北港「舞州(まいしま=此花区)」を提供してあげ、そこを江戸時代の長崎出島みたいに「New Hong Kong」として経済特区化したらいい。という名案を立てたのだが、これを理解し、実現させるだけの甲斐性のある政治家やそれを報じるメディアはなかった。現在でも、現在でも、「オリンピックの誘致などというケチくさいことをいわず、夢州(ゆめしま=舞州と住之江区沖の咲州の間に造成中の埋め立て地)に国連本部を誘致したらいい」という計画もぶち上げているが、この計画の真意も理解できる人がほとんどいないことが残念である。いずれの場合でも、国民・府民・市民の血税をほとんど使わずに、あっと言う間に、大阪を国際的「集客都市」にできる方法なのだが…。

  さて、ここまで大胆な施策でなくても、一民間企業(本当は第三セクター)に過ぎないUSJのもたらす効果についてだが、これも、フロリダ州のオーランド市のこの30年間にわたる驚異的な発展を見れば、相当参考になる。オーランドの発展は、アナハイム市(ロサンゼルス近郊)で既に大きな成功をおさめていたWalt Disneyが、今から30年前、テーマパーク事業の新たなる展開を求めて、フロリダ半島中央部のジャングル地帯に11,000haという大阪市の全面積の半分に及ぶ広大な土地を取得したことから始まる。そこに、アナハイム市のDisneylandより大きなDisney World という最新鋭もテーマパークを建設した。続いて隣接地にEpcot Centerというパークも併置し、ロビーから遊園地まで直接行けるオフィシャルホテル群も建設した。暫くすると、「ディズニーに続け」とばかり、Universal Studiosをはじめ数々のテーマパークがオーランドに進出してきた。

  この30年間に、オーランドの人口は40万人から160万人へと四倍増したし、ホテルの部屋数にいたっては、3,000室から80,000室へと二十数倍に増えた。ニューヨーク・シカゴ・ロサンゼルスといったアメリカの中核都市からのどこからも飛行機で3〜5時間もかかる田舎の、他にこれといった産業のないオーランド市の空港の年間乗降客数は、今では2,700万人を数え、関空どころか日本の空の表玄関である成田空港の2,400万人を凌ぐ集客力を持った空港に成長した。飛行機で3〜5時間の商圏といえば、韓国・台湾等はいうまでもなく、中国本土や東南アジアの各都市までがUSJの集客圏になっても決しておかしくないという計算になる。それなら、人口10億人のバックヤードがあると言っても過言ではない。


▼真のローカルこそ、真のユニバーサルに繋がる

  わが大阪のUSJは、ここまで考えて事業を開始したのであろうか? 確かに、既にオープン時点において、約7,000人の新規雇用(工事関係者を除く)を作り出した。大阪市の人口から計算すると、大阪市民350人に1人の割合で、USJに雇用されている計算になる。内訳は、820人の正社員と300人の契約エンターテイナー(役者、内150人が外国人)さらに残りの5,600人がパートである。万博や五輪といった一時的な雇用ではなく、破綻するまでと言ったら縁起が悪いが、USJが続く限り未来永劫この雇用を確保できることの経済的効果は計り知れない。経営陣は、開業4年で単年度黒字を目指し、6年で1,700億円の事業費の完全回収を目指している。USJを経営する株式会社ユーエスジェーは、事業費1,700億円の内、400億円を資本金から、残り1,300億円を金融機関からの融資で賄っている。

  USJのTDLの一番異なっているところは、TDLの運営会社オリエンタルランド(三井物産系?)は、以前にも述べたように純然たる民間会社であり、なおかつ、米国のWalt Disney Corporationは、$1も資本参加していない。ただ、ディズニーランドのロイヤリティを売っているだけである。しかし、わがUSJは、筆頭株主が大阪市で25%(100億円)の出資をしているのに続いて、米国のUniversal本体が24%、さらには、同社の関係企業であるフランスのLank社が10%の出資を行っている。つまり、大阪での事業が蹴躓くと、米国の本社までひっくり返る可能性があるということだ。いわば「人質」を獲っているので、Universal社も、出し惜しみせずに、次々と新しい映像ソフトやアトラクションを大阪に持ってこなければならないことになっている。さらには、元々、このテーマパークの地権者であった此花区の桜島地区に大規模な重厚長大型工場を抱えていた住友金属が10%、日立造船が5%、それに住友商事が5%を出資し、その他にも、地元関西の大企業41社が残りの21%の株式を保有しているという、いわば「オール大阪」の様相を呈している。

  ただ、一番気になるのが、TDLの真似をして「ここは日常生活を忘れさせる夢の国」というコンセプトを強調しすぎて、看板類がすべて英語であるのはいうまでもなく、園内の道路は右側通行であるし、マンホールの蓋まで、ニューヨーク市やサンフランシスコ市のものを利用しているくらいに、日本的なものの排除を徹底しているが、それなら携帯電話の電波も入らないようにすべきである。各アトラクションの前で、長い列を作っている女子中高生あたりが、暇つぶしにベラベラと携帯で話をしたり、メイルをカチャカチャされた日には、雰囲気ぶちこわしである。また、これもTDL同様、個人の飲食物持ち込み禁止であるが、大阪のおばちゃんたちはそんな甘いもんやない。あっという間に、たこ焼きなんぞを喰っている奴が出てくるに違いない。「日本」を排除できても「大阪」を排除することは、至難の業である。ひょっとすると、気がついたら、アトラクションの演技が、吉本のノリになってしまっているかもしれない。USJ側はそれを極力排そうとするであろうが…。真のローカルこそ、真のユニバーサルに繋がるのだ。

  さらに、大阪市が筆頭株主であるということから、これまで日本各地で失敗を重ねてきた「第三セクター」のようにならないことを祈るのみである。この事業を手がけた野崎前社長は現在の大阪市助役に「昇進」しているし、現社長の阪田晃氏は、前大阪市港湾局長であった。「お役人体質」よりも、大阪人としての商売のセンスが出ることを望む。ただ、各地の「三セク」みたいに役所と民間がおんぶにだっこの無責任体制ではなく、USJには34%もの外国資本も参加しているので、日本的「甘えの構造」は許さないと思うので、それなりのチェック体制が敷かれていると思う。USJとは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンのことではなくて、「United States & Japan」という日米合作の新しい文化事業の幕開けになることを期待している。


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