なぜアメリカ大統領制に憧れるのか(上)
 01年12月31日
   久保憲一 (鈴鹿国際大学 教授)

                   
▼アメリカ大統領制に憧れるわが国の政治家

 戦後、わが国の何人かの首相はアメリカの大統領制に憧れを示してきた。なかでも中曾根康弘氏は首相公選を切望し、「臨調型政治」「諮問政治」と言われる「アメリカ大統領型政治」『ブレーン政治』を採り入れた。しかしそれは当時の国民から「内閣・国会の軽視」「独裁的」として批難を受けた。細川護熙氏も「アメリカ大統領」スタイルを皮相的に好んだ。しかし両者共小派閥選出の首相として、閣内・党内調整には苦慮した。特筆すべき政治家に小沢一郎氏がいるが、彼もまた「アメリカニスト(親米政治家)」であろう。しかし新進党の党首時の彼は「政策」よりその強引な「政治手法」に対して批難を受けた。周知のように、小泉純一郎首相も目下、首相公選制を推進しようとしている。

 ところでアメリカ大統領は果たして彼らが憧れるほどの存在なのだろうか。今日、世界では大統領制はあまり成功しているとは言えない。かろうじて最も成功していると言えるのはアメリカであろう。実際、自由とデモクラシーを保持していると思われる先進17カ国中、「立憲君主制」の国は10ヵ国、「大統領制」の国は7ヵ国にすぎない。世界全体では「大統領制」の国はたしかに多い。しかしその大部分は自由とデモクラシーの政体からはほど遠い軍事独裁国である。南米やアフリカ諸国あるいは旧ソ連等の社会主義国を想い起こせば明白であろう。「大統領制」の国の中で、政治が安定し、基本的人権が保障されている国は、非常に稀である。


▼議会操縦(立法活動)において苦悩するアメリカ大統領

 アメリカではしばしば「帝王的大統領」と言われるほど絶大な指導力を揮う大統領が現れる。たしかに大統領は行政権を一手に握り、行政執行面では強力に指導できる。とくに軍事・外交・州際通商上では彼は大きな権限を振うことができる。事実、何人かの大統領は、連邦議会の承認を得ずに( 宣戦布告なしに)合衆国を多くの軍事紛争に巻き込んだ。

 ところが、議会運営(立法活動)については、アメリカ大統領は実に無力である。とくに国内問題に関わる立法活動においてはイギリスや日本の首相よりもはるかに脆弱である。なぜならアメリカの政治制度の「牽制と均衡システム」、とりわけ三権分離主義が議院内閣制よりはるかに厳格に作用しているからである。

 アメリカ大統領制では、大統領や閣僚はイギリスや日本のように連邦議会議員を兼ねることができない。彼らは(上院議長の副大統領は除く)、連邦議会から招かれた場合以外、連邦議会に出席しえない。また大統領は決して党首ではなく、党本部も有しない。そして与党を持たない彼は、立法、とくに国内分野の立法では極めて苦労する。ケネディ大統領でさえ、ほとんどといってよいほどその分野の立法では成功しえなかった。

 徹底した三権分離というアメリカ特有の制度的のため、大統領が強力な指導力を発揮し、彼に反抗的な連邦議会を操縦するには、どうしても国民世論に訴えざるをえない。たしかに軍事や外交分野では彼は相当自由に活動できるので、その分野での活動を通じてアメリカ国民に自らをアピールし、連邦議会を間接的に動かすことができる。不人気な大統領ほど軍事・外交分野でアピールしようとする傾向がある。ジョージ・ブッシュ大統領父子の場合がまさにそうであろう。多くの無辜の民を殺傷し、町や村を壊滅させるほどの戦争を起こす必然性や理由をあまり見いだしえないにもかかわらず、巧妙なマスコミ操作を行い、彼らはイラクやアフガニスタンに対して武力攻撃を始めた。


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