雲南省で少数民族を視察

2017年8月25〜30日

2017年8月25~30日、世界宗教者平和会議(WCRP)日本委員会訪中団(団長:庭野日鑛立正佼成会会長)の一員として、三宅善信代表が雲南省の昆明(海抜1,900m)と麗江(同2,400m)を訪れ、中国における少数民族の事情を視察し、併せて北京で少数民族問題を担当する政治協商会議全国委員会の馬彪副主席と会見。宗教行政を統括する国家宗教局の幹部とも会談した。

圓通禅寺で刀述仁雲南省佛教協会会長らと
圓通禅寺で刀述仁雲南省佛教協会会長らと

実質的な初日に当たる8月26日には、雲南省佛教協会の事務局が置かれている昆 と意見交換。また、折からの盂蘭盆会で賑わう同寺を住職の淳法師の案内で視察した。刀会長の説明によると、ミャンマーやラオスと国境を接し、中国の各省で最も多くの種類の少数民族が定住している雲南省には、北伝の中国式仏教(大乗仏教)だけでなく、南伝の上座部仏教や西伝のチベット仏教(密教)を奉じる人々も多く、圓通禅寺では、盂蘭盆会のような大規模な法要は、日替わりで大乗・上座部・チベット各仏教の方式で法要を務めるそうである。三宅代表は、「元帝国に征服される以前の唐代には南詔国、宋代には大理国という漢民族国家とは別の国であった雲南省の人々への中国政府の同化政策の問題点」について、刀会長に質問した。

連日大勢の僧侶で厳修される圓通禅寺の盂蘭盆会法要
連日大勢の僧侶で厳修される圓通禅寺の盂蘭盆会法要

午後からは、圓通禅寺に続いて、昆明市内に新築された「カトリック」教会の主教座聖堂を訪問した。こちらの教会は、圓通禅寺とは打って変わって信者も観光客の姿もまったく見ることのできない白亜の大聖堂は異様さのみが目に付いた。世界中のカトリック教会は、「ローマ教皇を首座に戴く」ということがローマ・カトリック教会の「条件」であり、全世界に数千人はいる司教や百数十名いる枢機卿の任命権はすべてローマ教皇にあるのであるが、中国共産党をすべての組織の上に戴く中国においては、ダライ・ラマ同様にそのことが許せず、司教や枢機卿の任命権を独自に主張する「中国天主教愛国会」という独自のカトリック教会を立てた。

白亜の昆明天主教大聖堂
白亜の昆明天主教大聖堂

この大聖堂は、「中国天主教主教団」の団長である馬英林主教の主教座であるが、留守番の神父に訊くと、日本の面積より少し広い雲南省に、「十万人の信者」がいるそうであるが、神父の数が三十二人と極端に少なく、とても信者に対して司牧活動をしているとは思えず、この大聖堂も、少数民族の権利や信教の自由を声高に叫ぶ欧米に対して「見せる」ための大聖堂であることは言うまでもない。この日の晩は、雲南省の人民政治協商会議の副主席主催の晩餐会が開催された。

歴史的景観の保存された麗江市の古城地区
歴史的景観の保存された麗江市の古城地区

移動日の27日は、国内線でさらに標高の高い麗江へと移動。気圧はなんと750hPa。麗江は、古来ナシ(納西)族の治める土地であった。長年、一妻多夫制の母系社会を維持してきたナシ族は、現在でも30万人の人口を有する。彼らの宗教的儀式の際に用いられる「トンパ文字」は、世界に現存する唯一の象形文字として知られる。現在の麗江市は、中国とは思えないスキッとした欧州風の街並みであるが、麗江市の古い街並みが綺麗に保存された「古城地区」は1997年にユネスコ世界文化遺産に指定された。この日の夜は麗江市の政治協商会議副主席による招待宴。翌28日朝、「古城地区」を視察し、13世紀半ばの元帝国の時代に麗江の府知事に任命されて以来、世襲で元、明、清の三つの時代を22世代にわたって支配してきた木氏の宮殿跡(北京の紫禁城の超小型版)を訪れた後、国内線で北京へと向かった。

馬彪中国人民政治協商会議全国委員会副主席らと会見
馬彪中国人民政治協商会議全国委員会副主席らと会見

29日、北京において、今回の中国滞在期間中で最大の「大物」である中国人民政治協商会議全国委員会の馬彪副主席と会見した。「中国人民政治協商会議(政協)」というのは、中国共産党、共産党以外の公認政党、各団体、各民族党の代表で構成される全国統一戦線組織。政協は、1949年9月に開催された第1回全体会議で、国旗・国歌・首都等の中華人民共和国の国体を決定し、中国共産党主席であった毛沢東を人民政府主席に選出した国家の重要組織である。政協の歴代の主席には、毛沢東、周恩来、鄧小平等のトップが名を連ねた。現在、21人の「副主席」が居るが、香港やマカオの行政長官もそのメンバーの一人である。大半が「漢族」であるが、チベット族・回族・チワン族・満洲族からの「代表」も各1名おり、馬彪副主席はチワン族出身のため、中国の少数民族を視察に行った今回のWCRP日本委員会の派遣団と面会することになった。この会見には、中国佛教協会会長で政協常任委員でもある学誠法師らも同席した。日本からの参加者は、三宅善信代表の他、団長を務めた庭野日鑛立正佼成会会長をはじめ、深田充啓円応教教主、小橋孝一日本キリスト教協議会議長、樋口美作日本ムスリム協会前会長をはじめ総勢27名であった。

中国国家宗教局事務所を訪問
中国国家宗教局事務所を訪問

馬彪中国人民政治協商会議全国委員会副主席と面会に続いて、馬英林中国天主教主教団主席の招きで、北京市内のハラール(イスラム教徒用に調理された)レストランで昼食会を持った。馬英林主教には、昆明の大聖堂における現地の留守居役神父の説明ではサッパリ解らなかった中国天主教愛国会の「教勢」についていろいろ質問したが、応えにくい質問にも、踏み込んで回答してくれた。中でも注目されたのが、神父を養成する神学校の数年間の教育課程の中で、聖書を学ぶために必須と思われるヘブライ語やギリシャ語、カトリック教義を学ぶために必須のラテン語の教育がなされないことである。中国共産党の独自の「解釈」に基づいて翻訳された聖書の内容に疑問を持った神父が、直接「原典」に当たって、その矛盾に気付かれては拙いからである。その意味では、1,400年前の玄奘三蔵法師の時代よりも後退していると言える。

北京市内のホテルでシンポジウムを開催
北京市内のホテルでシンポジウムを開催

この日の午後は、紫禁城の北西、后海の畔、清朝最後の皇帝宣統帝溥儀の父醇親王の館の跡地に設けられた中国国家宗教局事務所を訪れて、蒋堅永副局長以下と面会し、中国の宗教界の最近の動向などについて説明を聞いた。北京市内のホテルで、『日中宗教間交流と両委員会間の協力の今後の展望』をテーマにシンポジウムが開催された。CCRP(中国宗教者和平委員会)からは、中国佛教協会会長の学誠法師、中国イスラム協会会長の楊発明氏、中国天主教愛国会会長の房興耀主教(カトリック)、中国基督教三自愛国運動委員会会長の傅先偉師(プロテスタント)の4名の副会長と喇燦秘書長(チベット人)が出席した。因みに、この面々は、その翌月に北京の人民大会堂で開催され、習近平総書記の二期目を承認した中国共産党大会の際にも、揃って列席していた。その後、席を改めて、北京での歓迎&送迎の晩餐会が開催された。

中国道教協会本部で道教と神道の共通点と相違点について説明する三宅善信代表
中国道教協会本部で道教と神道の共通点と相違点について説明する三宅善信代表

中国滞在の最終日に当たる8月30日は、朝から中国道教協会本部を訪れ、李光富会長、黄信陽副会長らと会談し、WCRP日本委員会訪中団を代表して、三宅師が中国文化における道教の位置づけと日本文化における神道に位置づけの共通点と相違点について話をした。その後、中国の道観(道教寺院)の総本山とも言える白雲観を見学。昼食後、北京首都空港から帰国の途に就いた。

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